「砂漠のジミヘン」エムドゥ・モクター、新たなギターヒーローが語る愛と革命の音楽

エムドゥ・モクター(Courtesy of Beatink)

エムドゥ・モクターが最新作『Afrique Victime』で世界デビューを果たした。左利きのストラト名手であることから、ついたあだ名は「砂漠のジミヘン」。トゥアレグ族のギター・ヒーローが各所で絶賛のニューアルバムと、新植民地主義に浸食される母国ニジェールでの戦いについて語った。

2019年にパートナーが出産したとき、エムドゥ・モクターは地球の裏側で長期ツアーの真っ最中だった。ニジェール中部の砂漠の街アガデスで生まれたトゥアレグ族のギタリストは、今注目のジャンルtishoumaren(意訳すると「砂漠のブルース」)の中でも最近とくに海外で注目を集めているミュージシャン。この時すでに故郷――ローリングストーン誌との最新インタビューで(通訳を介して)語った本人の言葉を借りれば、「周りのバイブレーション」――が恋しくなっていた。パートナーのレイラも「自分を必要としていた時に、側にいてあげられませんでした」と胸の内を明かす。

モクターは自らの切ない胸中を吐露した。最新アルバム『Afrique Victime』の収録曲「Layla」では、ときにアメフトのラインバッカーのように激しく、ときに王立バレエ団のように軽やかにアコースティックギターを鳴らす。バックにハンドクラップとドラムのビートが流れ、時折エレキギターがハウリングを切り裂く中、彼はレイラへの呼びかけにこう答える。“レイラ、レイラ/愛しいレイラ、思いは募るばかり/愛しいレイラ、思いは募るばかり”



2019年の前作『Ilana: The Creator』は、モクターの存在を西欧に知らしめた1枚。だが、これがデビューアルバムではない。デビュー作ははるか10年以上前、2008年のアルバム『Anar』。トゥアレグ族の音楽に、ドラムマシーンとオートチューンのボーカルを取り入れたユニークな作品だ。アフリカ・サヘル地域の音楽の例にもれず、モクターの楽曲もBluetoothと携帯のメモリーカードを媒介に広がっていった。オレゴン州ポートランドを拠点に活動するブログ兼レーベルSahel Soundsの創設者クリストファー・カークリーも、そうやって西アフリカ旅行中にモクターの音楽と出会った。すっかり魅了されたカークリーは、デジタルファイルに書かれた「エムドゥ」という名前だけを頼りに、その後数年かけてアーティストの居場所を探り当てた。

モクターとカークリーはついに2011年に初体面。そこから一気に道が開ける。2013年から2019年にかけて、『Afelan』『Sousoume Tamachek』『Ihana』と3枚のアルバムをSahel Soundsからリリースした。2015年にはカークリーが監督した映画『Akounak Tedalat Taha Tazoughai』に主演し、音楽を提供。プリンスの「パープル・レイン」にオマージュを捧げたこの映画は、信心深い両親の心配をよそに音楽の道をめざすモクターの半生がベースになっている(トゥアレグ族の母語タマシェク語には「紫」という単語がないため、タイトルを直訳すると『限りなく赤に近いブルーの雨』となる)。そして昨年、モクターはMatadorと契約。5月21日に晴れて『Afrique Victime』がリリースされたというわけだ。




Matadorの共同オーナーのジェラルド・コスロイ氏は、Sahel Soundsのコンピレーションアルバム『Music From Saharan Cell Phones (Vol.1)』で「Tahoultine」を聞いて以来、ずっとモクターを追いかけてきたそうだ。コスロイ氏はずっとファンのままでいるつもりだったが、「2019年初頭に共通の友人のミュージシャンからプッシュされたんです。エムドゥもきっとMatadorでレコーディングしたいと思ってるだろう、とね」 何度か顔を合わせた後――「(モクターが)演奏する姿をできるだけたくさん見るための口実のようなもの」とコスロイ氏も認めた――契約が結ばれた。「エムドゥの過去の作品も気に入ってますが、『Afrique Victime』には現時点での彼の音楽性や世界観が完璧な形で表現されています。1枚のアルバムに、彼の数々の持ち味が存分に詰め込まれたアルバムです」とコスロイ氏。「とはいえ、彼やバンドメンバーの真の実力をかすってもいないと思いますがね」

Translated by Akiko Kato

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