マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン『Loveless』 ケヴィン・シールズが語る30年目の真実

轟音に溶け合うヴォーカルの背景

ーところでマイブラの音楽性は、あなたの弾くギター・サウンドと共に、ビリンダ・ブッチャーとあなたの囁くような独特なヴォーカルも重要な要素です。

ケヴィン:ああ、でも、その点は面白いな。というのも、僕たち自身はあれを囁くようなヴォーカルだとは感じていないから。あの歌い方は、非常に……集中しているし、静かでもあって、かといって必ずしも囁き声ではない、というのか……言葉では説明しにくいんだけれどもね、うん……。

ー1991年の初来日時に私はあなたにインタビューしてますが、「なぜ囁くように歌うのか」と訊くとあなたは「ニルヴァーナみたいに歌いたいけど、咳き込んじゃってできないから」と答えました。

ケヴィン:ああ、うん(苦笑)。

ーそれを私はジョークと受け止めましたが、実際、メンバーのヴォーカル・スタイルがマイブラの音楽のスタイル、音楽の構造を規定したところはあったんでしょうか。

ケヴィン:そうだね、うん。かなりそう。僕たちの歌い方というのは……ひとつ例をあげるとしようか。思い浮かべて欲しいんだけど、あの……やれやれ、あれは何て名前だっけ……南米発の音楽で、女の子、イカネマから来た? うーん、とっさに思い出せない……。

ー「イパネマの娘」? ボサノヴァの名曲の? 

ケヴィン:それだ! ボサノヴァというのは実はジャズの歌い方の一種で、シンガーの歌い方、そのトーン/調性が楽器のそれに近いんだ。僕たちの歌い方のスタイルは、もっとそっちと繫がっている。つぶやくような歌のスタイルという意味でもそうだし、あるサウンド……一種の静けさみたいなものも共有している。特に『Loveless』で顕著だけど、あの作品での僕たちの歌い方はーーうまい表現が浮かばないけど敢えて言えばーー周波数レスポンス的なものをもたらしていて。実はそれは、ディストーションのかかったギターにかなり似ているんだ。だからぴったり溶け合う。ディストーションとあのヴォーカルの調波が、奇妙な具合に、ひとつになるんだよ。逆にすごく大声を張り上げたハードな歌い方だと、ヴォーカルにディストーションのかからない限りそうはいかない――ああ、というか、それもありだな。それこそカート・コバーンみたいにディストーションのかかった激しい歌い方であれば、ギターともハモる。ただ、そうではなく、ヴォーカルが中間域にいて単にラウドに歌うだけだと、それは“ただのロック”っぽく聞こえてしまう。ギターから分離して聞こえるんだ。

で、僕たちとしては、ヴォーカルを一種の楽器のように捉えつつ、でももっとボサノヴァ的に考えよう、と。楽器では調性、トーンが重要だからね。だからなんだよ、たとえばビリンダの声とキーボード・サウンドでやったように、オーヴァーダブしたパートとヴォーカルとが溶け合っているのは。ある意味、何もかもは僕たちの作り出しているトーンの一部、というか。そういう楽器的な資質を備えているっていう。




ーなるほど。面白いですね。

ケヴィン:うん。まあ、聴き手のアテンションをヴォーカルに集中させるのとは異なるアプローチ、ってことだね。しかもディストーションとあのサウンドのせいで、ボサノヴァのようには聞こえない。ボサノヴァほど隙間がないからね。ただ、調性という考え方でいけば、あの歌い方は(ロックよりもむしろ)ジャズ的な歌唱ともっと繫がりがあるし……ああ、一部のフォークの歌唱とも関わっているね。歌う時、フォーク・シンガーは自分個人をパーソナリティとして歌に強く打ち出そうとしない、みたいな。

ーああ、伝承的なフォークではそうですよね。

ケヴィン:彼らシンガーはむしろ、何かを伝達するための媒介に近い存在なんだ。それは20世紀のポピュラー音楽というか、ロック/ポップ流の歌唱とは異なるものなんだよね、というのもロックやポップは大体において、歌い手のパーソナリティおよびエゴの彼ら特有の表現がポイントだから。で、さっきも言ったように僕たちの歌い方はそれとは別の歌唱法、ジャズやフォークから発したものの方に近い。というか、それに限らず、ヴォーカルが"私に注目して!"と主張することのないような、そういうフォルムを持つあらゆる音楽の方に近いんだよね。

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マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン
新装盤CD/LP
2021年5月21日世界同時リリース
国内盤:高音質UHQCD仕様/解説書付

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商品詳細:
『Isn’t Anything』
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『loveless』
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『m b v』
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『ep’s 1988-1991 and rare tracks』
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Translated by Mariko Sakamoto

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