ニルヴァーナやジミヘンの「新曲」を制作、AIプロジェクトの真意とは?

AIによる楽曲制作の可能性とは?

ニルヴァーナはコンピューターが模倣するアーティストの中でもとくに難しいことが判明した。ヘンドリックスのようなアーティストは、すぐに彼とわかるリフで「パープル・ヘイズ」や「ファイア」などの曲を構成している一方、コバーンは重厚でパンクなコード進行で演奏することが多く、コンピューターを混乱させた。「どうしてもウォール・オブ・サウンド風になってしまうんです」 Magentaが生成したニルヴァーナ風の音楽について、オコナー氏はこう言った。「どの曲にも一貫してニルヴァーナだとわかる共通点が少ないので、コンピューターが学習して新しい曲を作る際の大量のサンプルが足りないんです」

「(「Drowned in the Sun」は)非常に正確で(ニルヴァーナの)雰囲気が味わえるが、出版停止命令を喰らうほどじゃない」というのがホーガンの意見だ。「ニルヴァーナが最後にリリースした曲、つまり「ユー・ノウ・ユーアー・ライト」を見れば、あれにも同じような雰囲気がある。カートは彼が書きたいと思ったものをただ書いた。本人が気に入れば、それがニルヴァーナの曲になる。(「Drowned in the Sun」の)アレンジには、ここは『イン・ユーテロ』っぽいな、こっちは『ネヴァーマインド』っぽいぞ、と感じるところも確かにある……AIのことがよく分かったよ」

ホーガンがとくに感銘を受けたのは、コンピューターがはじき出した歌詞だそうだ。彼の意見では、コバーンの書いた歌詞はつねに「ごたまぜ感」があるが、今回の歌詞はコバーンらしいメッセージを失うことなく、よりダイレクトだと彼は感じている。「考えが完全にまとまったと感じがする」と彼は言う。

「俺は変わり者だが自分では気に入っている、というのがこの曲の趣旨だ」と彼は言う。「完全にカート・コバーンそのものだよ。彼ならまさしく言いそうな感じだ。“太陽が君に降り注ぐが、俺にはさっぱりわからない”――最高じゃないか。基本的に、俺なりの曲の解釈はこうだ。『俺は最低、お前も最低。違うのは、俺はそれでいいと思っているが、お前はそうじゃない』」(この曲を聴いてホーガンは、ギターも自分が演奏すると申し出たが、プロデューサーはこれを断ってコンピューターに演奏させた)

ということは、「Drowned in the Sun」はある意味、神や宇宙の摂理に抗うフランケンシュタインのような産物なのか? 「倫理の話題をするには、俺は適任とは言えないと思うよ」とホーガンは笑って言った。「だって、俺は他の誰かに成りすまして全米を回っているわけだから」

「こういうのにケチをつけて、『ああ、本物の音楽が死んだ』というような奴が大勢出てくるだろうね」と彼はこう続けた。「でも俺は一向にかまわない。ツールとしては相当イケてると思う。将来的に、法律面でどうなるかはわからないが。最初はいい感じだと思って始めたものも、問題を抱えるようになるかもしれないしね」

Over the Bridgeの狙いは、ひとえにメンタルヘルスの対処について関心を高めることだ。同団体ではアーティストの啓蒙と孤独感の緩和のために、Facebookページを立ち上げてサポートしたり、Zoomでのセッションやワークショップも行っている(楽曲を販売する予定はない)。「誰か1人が『私もあなたと同じような気持ちなんです』と言ってくれるだけで、少なくとも何らかの支えを得られたと十分感じられる時もあります」というのはLemmon Entertainmentの代表を務めるマイケル・スクリヴン氏。ちなみに同社のCEOも、Over the Bridgeの理事の1人だ。

このプロジェクトで、AIミュージックにどれほどの努力が割かれているかにも目を向けてほしい、とスクリヴン氏は期待を寄せる。「これを作るにも、段階の序盤、中盤、終盤で、尋常でない数の人が関わっています」と彼は言う。「いつか(AIが)生身のミュージシャンに取って代わるだろう、と考える人も大勢いるかもしれませんが、現時点では聞くに堪える曲を作るには多くの人間の手が必要です。それは大きいですよ」 どの曲も、オコナー氏、Magentaの技術者、音楽プロデューサー、スタジオエンジニア、ボーカリストの手が不可欠だった。「ボタンを押して、一瞬でアーティストを一掃するなんてことにはなりませんよ」とオコナー氏も言う。

「(Over the Bridgeの人々には)もっとAIを追求していってほしい」とホーガンも言う。「この分野にはもっともっとやれることがある」

From Rolling Stone US.



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Translated by Akiko Kato

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