過熱する音楽ドキュメンタリーのブーム、その背景にある2020年代のメディア構造の変化

ビリー・アイリッシュ(Photo by Koury Angelo/Getty Images for Apple)



アーティスト側が「見せたいもの」

もっとも、前号で取り上げたライブストリーミングコンサート同様、ドキュメンタリー制作も多額の予算を要するため(ビリーのドキュメンタリーは製作費100~200万ドルと言われている)、大物とインディや新人との更なる格差拡大に繋がる恐れがあることは指摘しておかなくてはならない。

それに、基本的に最近のドキュメンタリーはアーティストや所属レーベル発で作られているため、どれだけ監督に自由を与えていると言っても、最終的にはアーティスト側が見せたいものを見せたい形で見せるためのものだろう。そこには本当の「素顔」は存在しない。換言すれば、第三者の視点、つまりジャーナリズムが欠けているので不健康だという言い方もできる(日本未公開のブリトニーのドキュメンタリーはNYタイムズ制作なので例外的)。

だが、そもそも2010年代は、従来のメディアの影響力が低下し、SNSの台頭でアーティスト本人の発信力が強まったディケイドだった。今や大物アーティストは、メディアのインタビューというリスクはあってもメリットが少ないプロモーションにはほとんど応じない(せいぜいアルバム1枚につき1本、よくて2本だろう)。その点から考えても、ドキュメンタリーのブームが起きているのは理に適っている。

その良し悪しの判断は一旦置いておくとして、映像ストリーミングサービスの隆盛というメディア構造の変化、そして2010年代以降のアーティストとファンとメディアのパワーバランスの変化を背景にしているドキュメンタリーの台頭は、しばらく勢いが留まりそうにない。

Edited by The Sign Magazine

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