「生の音楽が恋しくてたまらない」ノラ・ジョーンズ初のライブ・アルバムを紐解く

ノラ・ジョーンズ(Photo by Vivian Wang)


「また会える日まで」というタイトルの真意

「2002年のデビューからこれまでずっとステージに立ち続けてきた」と冒頭に書いたが、しかし2020年からノラは1度もステージに立てないでいた。COVID-19のパンデミック。「それならば」と彼女は2020年3月以降、自宅からの弾き語り配信を頻繁にするようになった。人々が隔離生活を強いられるようになっても、音楽で繋がっていたかったのだ。

「自分がやっていることなんて、ちっぽけで無意味じゃないかと思うときもあった。でも気づいたの。私は毎朝音楽をかけているけど、それだけでずいぶん気持ちが落ち着くものだって。もし音楽がなかったら、この隔離生活を乗り切ることはできなかったと思う」

『ピック・ミー・アップ・オフ・ザ・フロア』のリリース後にそう話していたノラだったが、その思いは過ぎ行く時間のなかでより強くなっていったのだろう。今回のライブ・アルバムのリリースにあたって、彼女はこうコメントしている。

「私たちは生(ナマ)の音楽が恋しくてたまらない。ファンやバンドと交流することが」「2019年のライブを聴いていて、すごく気分がよくなった。それで“あの頃の自分”を集めてアルバムを出そうと思ったの。もしかすると、それを聴いたひとが私と同じようにいい気分になってくれるかもしれないから」


Photo by David Barnum

これまでライブ・アルバムというものをリリースしてこなかったノラ・ジョーンズだが、このような思いから今こうして出すことにした。ツアーができないなら、せめてライブ・アルバムを聴いて“いい気分”になってもらいたい。いつかまた、私とあなたが会場で会えるその日まで。必ずまた会うために。ティル・ウィー・ミート・アゲイン。そういうことだ。

キャリア初となるライブ・アルバム『ティル・ウィー・ミート・アゲイン』は、2017年以降のワールド・ツアーで演奏されたもののなかから14曲(国内盤はボーナストラック含めた15曲)を収録。そのうち5曲は2019年12月のブラジルはリオ・デジャネイロ公演のものだ。セレクトはノラ自身によるもので、1stアルバム『ノラ・ジョーンズ』から3曲、2ndアルバム『フィールズ・ライク・ホーム』から2曲、5thアルバム『リトル・ブロークン・ハーツ』から1曲、6thアルバム『デイ・ブレイクス』から2曲、ミニ・アルバム『ビギン・アゲイン』から3曲が選ばれている。また、2019年に連続でデジタル・リリースしたシングルのうちの2曲――「アイル・ビー・ゴーン」(メイヴィス・ステイプルズとの共演曲だが、ライブではノラのソロ歌唱にブライアン・ブレイドとジェシー・マーフィーがコーラスをつけている)と「フォーリング」(リオ・デジャネイロのシンガー・ソングライター、ホドリゴ・アマランチとのデュエット曲だが、ライブではノラが独唱。アコースティック・ギターでジェシー・ハリスが迎えられている)も収録。3rdアルバム『ノット・トゥ・レイト』と4thアルバム『ザ・フォール』からは選ばれてないとはいえ、「ドント・ノー・ホワイ」や「サンライズ」のような初期のヒット曲も入っているので、「ベスト・ライブ・ヒット」という国内盤の副題も決して大袈裟というわけではないだろう。



ノラをサポートするのは、ドラムがお馴染みのブライアン・ブレイド。ベースは6曲がクリストファー・トーマスで、7曲がジェシー・マーフィー。オルガン入りの5曲はピート・レムが弾いている。そのバンド・グルーヴの凄さとアレンジの妙にも唸らされるし、先に述べたようにノラの歌唱の深化にも震えるものがある。「イット・ワズ・ユー」や「アイル・ビー・ゴーン」はソウルフルに、「ジャスト・ア・リトル・ビット」は抑制して歌い、そのように曲ごとに多様な表現を見せている。ブライアン・ブレイドとジェシー・マーフィーとノラの演奏が凄まじいほどのテンションで合わさり、緊迫感を伴って展開する長尺の「フリップサイド」などは鳥肌ものだ。

また、これがアルバム初収録となるカバーも1曲収録。90年代のグランジ・ムーヴメントを牽引したサウンドガーデンの名曲「ブラック・ホール・サン」だ。同バンドのシンガー/ギタリスト、クリス・コーネルが2017年5月17日に他界し、ノラは翌週のライブでこの曲を歌って以来、度々取り上げてきた。実に思いのこもった弾き語りである。加えて記しておくと、国内盤ボーナス・トラックの「サンライズ」は2017年4月17日の大阪城ホール公演からのもの。観客の手拍子の入れ方がいかにも日本的だが、またこんなふうにノラのライブをナマで味わいたいという気持ちが募る。このライブ作品を繰り返し聴き、いつかその日が来るのを信じて辛抱強く待つとしよう。




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