「生の音楽が恋しくてたまらない」ノラ・ジョーンズ初のライブ・アルバムを紐解く

ノラ・ジョーンズ(Photo by Vivian Wang)

ノラ・ジョーンズがデビュー・アルバム『ノラ・ジョーンズ』(原題:Come Away with Me)発表20周年を目前に控えたタイミングで、ライブ・アルバム『ティル・ウィー・ミート・アゲイン ~ベスト・ライブ・ヒット』をリリースした。これまでライブDVDのリリースはあったが、頑なにライブ音源のリリースを拒んできたノラの初のライブ・アルバムを紐解く。

【動画を見る】ノラとドン・ウォズ(ブルーノート・レコード社長)による対談映像

ノラ・ジョーンズは正真正銘のライブ・ミュージシャンだ。2002年のデビューからこれまでずっとステージに立ち続けてきた。観客の前で演奏して歌うこと。それを一義として活動を続けてきた。ミュージシャンとは元来そういうものであるという考えを当たり前に持っているし、何より彼女自身、ライブが好きで好きでしょうがないのだ。

例えばデビュー・アルバムが爆発的なヒットとなって自身を取り巻く環境が大きく変化したとき(ノラはそれを「クレイジーな状況」と呼んでいた)、彼女はとにかく気の合うミュージシャン仲間たちとあちこちツアーして回ることでストレスフルな状態に陥ることを回避した。例えば「ノラ・ジョーンズ」としての大きなツアーがひとつ終わって一段落すると、いつも彼女は休養の時間をとるでもなく、遊びの延長で友達と組んだバンド(リトル・ウィリーズだったり、エル・マッドモーだったり、プスンブーツだったり)でバーやライブハウスでの演奏を楽しんでいた。そこに「仕事」という概念はなく、純粋に演奏を楽しみたいから、演奏するのが何より好きだから、彼女はそうして休むことなくライブを続けてきたのだ。



ライブを続けることで、彼女は演奏者として、シンガーとして、成長してきた。デビュー当時から動向を追ってきたひとなら、2000年代と2010年代で彼女のライブパフォーマンスのクオリティ、向き合い方、密度がずいぶん変化したことをわかっているだろう(現に2017年の日本公演は、2002年や2005年のそれとは密度のまったく異なるものだった)。もちろんハンサム・バンド時代の和気藹々とした雰囲気も、あれはあれでよかったし、自分も好きだった。が、『ザ・フォール』のツアーでの新バンドを経て、『デイ・ブレイクス』以降のツアーでブライアン・ブレイド(Dr)やクリストファー・トーマス(Ba)やピート・レム(Key)といった腕利きがほぼ固定化されると、彼女のライブ表現はグッと濃いものになり、太い芯の通ったものになった。とりわけ歌唱表現がディープになった。2017年4月の日本公演の段階でそうした印象を受けたひとも多かったに違いないが、その少しあとから2019年までのライブテイクが収録された『ティル・ウィー・ミート・アゲイン』を聴けば、ノラ・ジョーンズがいかに深い歌唱、いかにソウルフルな歌唱をするシンガーへと進化したかが如実にわかるはずだ。未だ初期のイメージにとらわれたままのひとがこのライブ盤を聴いたら、ちょっと驚いてしまうかもしれない。

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