誰もが天才と認める音楽の申し子、タッシュ・サルタナの知られざる葛藤

成功が約束されていた「圧倒的才能」

普段の会話で耳にするサルタナの声は、歌っている時のトーンとは異なる。そばにある何かしらの物体に反射してから届くようなその声はフレンドリーで、典型的なオーストラリア英語だ。一方でサルタナの歌声は、まるで水のように聴き手の体に浸透していく。

タッシュ・サルタナの音楽は、必ずしも大衆向けだとは言えない。2018年発表のシングル「ブラックバード」はほぼインストゥルメンタルであり、「ジャングル」では冒頭から2分の時点まで歌が入らない。それでも、10億回以上の再生回数とコーチェラへの出演は、その音楽がメインストリーム級の成功を収めていることを示している。サルタナの目的は世界的に有名なることではなく、ただミュージシャンとして生計を立てていくことだったが、自分が才能に恵まれていることはどこかで自覚していた。サルタナの友人で盟友でもあるジョシュ・キャッシュマンは、初めて会った時にその圧倒的な才能に驚かされたという。

「The Espyでのタッシュのパフォーマンスを観た瞬間から、素晴らしい未来が待っていることを確信してた。世界がタッシュに魅了される日が来るであろうことを、僕は信じて疑わなかった」ビクトリア州ギップスランドにある自宅から、筆者とのZoomインタビューに応じてくれたキャッシュマンはそう話す。「周囲の人々と同じように、タッシュ自身もそう感じていたと思うよ」

キャッシュマンとサルタナは、2014年にメルボルンのセント・キルダで出会った。The Espyで毎週火曜の夜に行われていたイベント「Brightside」では、20ドルのギャラと半額で提供されるステーキを条件に、毎回5組のアーティストが出演していた。そのパフォーマンスを観たキャッシュマンは、サルタナにハグをせずにはいられなかった。「言葉にならなかったんだよ」彼は笑顔を浮かべてそう話す。深く物事を考える点が共通していたサルタナとキャッシュマンは、すぐに良き友人同士となった。サーフィンやスケート、ジャムセッションに興じていた両者は、一緒にツアーを回ったこともある。2人は現在でも、週に1度は必ず話しているという。


RBC Echo Beach Torontoでのタッシュ・サルタナ、2019年5月31日撮影(Photo by Dara Munnis)

「タッシュは成功を収めてからも、それを鼻にかけるようなことはなかった」キャッシュマンはそう話す。「人は有名になるとエゴイスティックになりがちで、『誰に向かって口を聞いてるんだ?』なんて言ったりする。でも時間が経つにつれて、タッシュはむしろ謙虚になってる」

キャッシュマンとサルタナは、2014年に「More Than I Should」を共作し、YouTubeで公開した。パートナーとの別れをテーマとしていた同曲を、サルタナは『Terra Firma』のセッションでアレンジし直し、それぞれマイクを手に持った2人は向かい合う形でハーモニーをレコーディングした。2人で話し合った結果、同曲は「ドリーム・マイ・ライフ・アウェイ」に改題された。

※後編に続く



From Rolling Stone au.




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Translated by Masaaki Yoshida

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