三浦大知「Backwards」を考察「リスナーを信用した上での挑戦的な姿勢」

「Backwards」で辿り着いた到達点

最新シングル「Backwards」はこの2人の美点が最大限に発揮された傑作で、4曲18分余というほどよい長さや雰囲気的な統一感もあってか完成度の高いEPとしても聴ける内容になっている。Nao’ymt作の表題曲は近年のザ・ウィークエンドがフランシス・アンド・ザ・ライツなどを経由してブリアルあたりに接続したようなスタイルで、大幅なテンポ減少および加速(1分53秒あたりではBPMが1/4になる)を流麗に聴かせるビート構成が素晴らしい。



続くUTA作「Spacewalk」はルイス・コール的なエレクトロファンクと王道J-R&Bを滑らかに融合したような(近年の星野源にも通じる)スタイルが格好良く、三浦の手による歌詞も発語の心地よさとテーマ=宇宙の描写(無重力空間内での緩急ある制動感覚なども含め)を音楽的に両立する極上の仕上がりだ。もうひとつのUTA作「Didn’t Know」も見事の一言で、アルカやイヴ・トゥモアあたりに通じるインダストリアル/ミュータント音響を活かした深く変則的なハウスビート(歌い出しは小節の1拍目だがバックトラックは裏拍を攻めまくる)は、三浦の爽やかにくぐもる声と不思議な相性をみせている。



そして最高なのが「About You」。解決しない音進行で解決しない想いを綴る作編曲はNao’ymt流ブルースの極致で、曖昧な響きの和音にこびりつく断片的な歌メロ(ネオソウル的な揺れを生みやすい短音価)も、そして想いが弾けるところで繋がり飛翔するキメ(mid E♭からhigh high Cに至る約3オクターブ)のフレーズも、三浦大知の技術とバランス感覚があればこそ可能になるものだろう。音もなく雪が降り積もるような優しい激情表現も絶品。『球体』制作のきっかけにもなったNao’ymtソロ路線の一つの到達点となる名曲である。

以上4曲の全てについて言えるのがリスナーの咀嚼力を信用した上での挑戦的な姿勢。複雑な構造をぶつけても受け入れてもらえるだろうと信頼し際どいラインを攻めるスリリングなコミュニケーションはポップミュージックの一つの醍醐味だし、それを見事に成立させるアーティストとしての実力や持ち味も素晴らしい。広く聴かれるべき傑作である。





三浦大知
「Backwards」
SONIC GROOVE
発売中
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