米ポルノ業界、アジア系女優たちが苦悩する「差別」の実態

求められる「現実」と理想のギャップ

だがキャリアをスタートさせたばかりのアジア系俳優に、非ステレオタイプな役柄が提示されるのはごくごく稀だ、とアダルトコンテンツ・クリエイターのサヤ・ソンさんは言う。そうした役をオファーされるのにうんざりしたのもあって、彼女はメインストリームのポルノ界から退いた。「自分を売り込みたかったら、フェティッシュの対象にされるのもよしとしなくちゃいけない」と彼女は言う。「それについて文句を言えば、私のような結末になる――どこからも声がかからなくなってしまうんです」

業界の売れっ子の1人のアキラさんでさえも、駆け出しのころは典型的なアジア人の役をあてがわれたと公にしている。「一辺倒な感じが大嫌いだった。そんな役をやってもセクシーな気分にはなれなかった。一目瞭然だと思うけど」と、彼女は2014年にこう語っている。だが年月を重ねるうちに、彼女は「受け入れる」ようになった。「アジア文化の軽視だという人も大勢いるでしょうね。でも私はアジア文化の讃歌だと思う」と本人。「私の人となりを妄想するのはちっとも悪いことじゃない。あえて言うなら、私のクールな部分を称賛しているんだと思う。男の人は私の作品を見て、笑い者にするわけじゃない。私の作品を見てオカズにしているのよ」

だが他の俳優に言わせれば、とりわけメインストリームのポルノ界では、特定の役柄を演じたり、特定の常套表現に徹したりするよう、強い圧力をかけられることもあるという。ビデオチャット・パフォーマーのジョーイ・キムさんは、「とても従属的で、お客の言いなりになる」設定のオリジナルコンテンツを作ってほしい、とファンからリクエストされることもあるそうだ。「幸い、私の仕事ではそういうオファーを断ることができます。でもポルノ業界全般で言えば、女性は所属事務所や仕事相手の企業をがっかりさせたくないがために、自分がまったく気乗りしないものをやらなきゃとプレッシャーを感じることはざらです。たとえ自分らしさや、自分が作りたいものが全く反映されていなくても」

リュクスさんが駆け出しのころは、回ってくる役柄は「アジア版ニューハーフ」や「売春婦、アジア系マッサージ店のような典型的な役柄」がほとんどだったそうだ。「権力の大半は白人男性の手に握られているから、そういう作品の表現やあらすじ、服装、人物像にはインクルージョンなんてかけらもない」と彼女は言う。「個人的には納得していなかったけど、生計を立てるためにそういう描き方も受け入れた。自分にはもっと価値があると感じていた。でも仕事だから、同意したの」。彼女の話では、自分の人種やジェンダーアイデンティティゆえに、舞台裏でプロデューサーから侮辱的な扱いを受けたこともあったらしい。キャリアを重ねた結果、彼女はステレオタイプな従属的アジア人の配役を避けるべく、むしろ支配的なイメージを取り入れた。だが「心の奥底では、(かけだしのころに)やったシーンが私の中でそれなりにトラウマになっている」と言う。

Translated by Akiko Kato

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