現代最高峰のR&Bシンガー、SZAの「リアルな表現」が支持される理由

コントロール不能な日々を超えた先にある「Good Days」を求めて

高評価を獲得したデビュー・アルバムや多くの有機的なコラボレーション・ワークスなど、一見すると絶好調であるようにも思えるSZAのキャリアだが、多くのファンが「CTRL」以来となる2ndアルバムを切望する一方で、彼女は自身の人生における最も苦しい時期を迎えていた。2020年2月に実施されたローリングストーン誌のインタビューにて、彼女はそれまでの一年について”悲しみと内省に満ちた「とんでもない年」”であると語っている。

2018年秋に、親友でコラボレーターのマック・ミラーが事故による過剰摂取で亡くなり、2019年6月には彼女が愛してやまない祖母のノーマが死去。更にその5カ月後の11月には叔母が突然亡くなってしまった。愛情を寄せていた人々の相次ぐ死を前に、限界を迎えた彼女はエクササイズとウェルネスに傾倒しながら、この深い暗闇を何とか抜け出そうとしていたのである。

当時の彼女は次のように語っている。

「持ち直すためには、本気で決断しなければいけない。もし出来なければただ死ぬだけ。私は自分自身のためにそれをやろうと決めた。私は自分が気になる音楽だけを作ろうとしているつもりだし、私と本気でやろうとしている人たちと仕事をしようとしている。意味のあることを全部やって、情熱的なことをやって、自分には価値があって、才能があって、素敵な女性だということを思い出そうとしているだけ。基本的なことだけど、それが私がやっていること」

恐らくその取り組みは成功したのだろう。前述の「Hit Different」で復活を果たしたSZAは、今、新たなピークを迎えている。2020年末にリリースされた「Good Days」は全米ビルボード・チャートでソロとしては自身最高位となる9 位を記録し、ドージャ・キャットとのコラボレーション楽曲としてリリースされたばかりの「Kiss Me More」が現在進行系でチャートを賑わせている。



特筆するべきは、彼女の魅力である感情の二面性を率直に描くリアルさが、新たな境地へと向かっていることだろう。「Good Days」のテーマは、タイトルが示す通り、いつか良い日々が来ることを願うというポジティブなものだ。だが、一方では他者の存在が強く自分の思考を掻き乱し、心の底から平穏を願っているにも関わらず、それをコントロールすることが出来ずに恐怖や限界を感じていることに苦しむ様子も描かれる。それでもなお彼女は「鎧で守られた運命(my armored fate)」、つまり他者に影響されることなく、自分の人生を自らコントロールすることが出来る日々=「Good Days」が訪れることを笑顔で待ち続けることを選ぶ。「CTRL」における日記のような具体的な歌詞から、より普遍的な、多くの人々の心の隙間に射し込むような内容へと変化していることが分かる。

「Good Days」はストリーミング時代に適応した特徴的なイントロや、TikTokで活用されるであろうキラーフレーズを搭載しているタイプの楽曲ではなく、淡々としたアンビエントなアレンジに仕上がっている。だが、迷いのない歌声で彼女が紡ぐ率直で普遍的な言葉は、同じく自らの力では到底コントロール出来ない日常を過ごしながら、それでもまだ希望を抱く現代のリスナーにとって、最も深く共感出来るものだった。だからこそ、この楽曲は彼女のこれまでの作品の中で最も強く支持されることになったのだろう。



一方で、ドージャ・キャットとの「Kiss Me More」では、また新たな心境の変化を確認することが出来る。元恋人に対して当時の関係性を「まるで刑務所の中にいるかのよう」と痛烈に批判し、“Pu**yは聖杯みたいなものだろ(Pu**y like holy grail, you know that)”と自らを誇示しながら、それでももっと努力してくれれば、また相手にしてあげても良いかもしれないと仄めかす。このヴァースでは自分のお尻のサイズに自信を持っていることを示すフレーズ(“All this ass for real”)も飛び出しており、かつては不安を抱いていた自らの外見について、今ではポジティブに捉えることが出来るようになったことを示唆しているのだ。もちろん、今でも問題は抱えている。だが、少なくとも以前よりも自分に自信を持ち、一人でも前に進もうと思えるようになった、そのような成長を新曲からは感じることが出来るのである。それもまた、今の彼女にとってのリアルなのだろう。

「CTRL」の最後の楽曲である「20 Something」で、SZAは自らが若く自由でいられる「20代」という時期を終えようとしていることに強い焦りを感じていた。だが、遂に30代を迎えたSZAは、今なお若く自由である自分の姿に喜びを抱いている。

“半数の人々は若さを台無しにしている。それは今ここにあるのに。もう半分の人々は泉のように湧き出る若さを追い求めている。それは今、ここにある”(「Good Days」より)

自分を縛り付けていたのは、言葉ではなく自分自身だった。そして本当の意味での自由を手にした彼女は、再び、自分にとって最もリアルな表現を追求しようとしている。だからこそ彼女が創り出す新たな音楽は、これから更に多くの人々の感情を揺さぶることだろう。




ドージャ・キャット
「Kiss Me More feat. SZA」
配信中
https://DojaCat.lnk.to/KissMeMoreftSZARS


SZA
「Good Days」
配信中
https://lnk.to/SZAGoodDaysRS

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https://lnk.to/SZA_Playlist

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