現代最高峰のR&Bシンガー、SZAの「リアルな表現」が支持される理由

SZA

先週末にリリースされたドージャ・キャットとの共演曲「Kiss Me More」も話題のSZA(シザ)。2017年のデビュー・アルバム『CTRL』で大きく飛躍し、昨年末リリースの最新曲「Good Days」もロングヒットを記録している彼女の魅力を、気鋭のライター・ノイ村が解説する。

現代を代表するR&Bシンガーの一人として、SZAの名前を挙げることに抵抗のある人物は少ないだろう。メジャー・デビューから僅か4年というキャリアでありながら、これまでグラミー賞で主要部門を含む9度ものノミネートを果たし、チャイルディッシュ・ガンビーノやジャスティン・ティンバーレイクといったトップ・アーティストと次々とコラボレーションを実現させ、2018年の映画『ブラックパンサー』ではケンドリック・ラマーと組んで主題歌「All the Stars」を提供するなど、今の彼女は既に破格とも言える成功を収めている。

だが、一般的にR&Bという音楽ジャンルから想起される”成熟”や”大人っぽい”といった言葉は、彼女の魅力や成功の背景を語る上ではもしかしたら不十分かもしれない。彼女のファンの多くは、むしろそういった言葉に憧れながらも、一方で様々な出来事や他者に感情を揺さぶられてしまう彼女のリアルな姿に共感を抱いているのだから。



「TDE」と契約、その背景にある「リアル」な魅力

SZA(本名:ソラーナ・ロウ)のアーティストとしてのキャリアは、彼女が大学に在籍しながら自身の音源を自主制作していた時期に遡る。彼女が作品をSoundCloudにアップロードし始めるとすぐに「Aftermath」などの楽曲が大きな注目を集めるようになり、2013年には現在の所属レーベルであるTop Dawg Entertainment(以下TDE)と契約を結ぶに至る。

TDEはケンドリック・ラマーやスクールボーイ・Qといった現代のヒップホップ・シーンにおいてトップクラスのアーティストを数多く抱える、カリフォルニアを拠点としたヒップホップ・レーベルである。同レーベルにおいてSZAのようなアーティストが所属するというのは極めて異例の出来事であり、現在でも彼女は同レーベルにおいて唯一の女性アーティスト、そしてシンガーだ。裏を返せば、彼女の音楽にはそのようなアーティストと通ずる「特別な何か」があったからこそ契約に至ったと考えることも出来るだろう。

レーベル契約後、初めてリリースされた作品であるEP『Z』(2014年)は、現在の作風とは異なるアンビエントなサウンドが特徴的な作品だ。ケンドリック・ラマーやチャンス・ザ・ラッパーといった豪華ゲストも参加している本作だが、彼女が紡ぐ言葉や歌声は極めて抽象的で、様々な状況や感情が一曲の中に散りばめられているように聞こえる。だが、かつて自らが尽くした相手との信頼関係における不安を切実に訴えかける人気曲「Julia」のように、揺らぎの中で感情が振り切れた瞬間に生まれるカタルシスが本作のハイライトとなっている。このように、自分の中に存在する様々な感情が同居する様子を丁寧に描こうとするが、時には完全にコントロールすることが出来なくなってしまう、そんな自分自身の姿を率直に描き切るというリアルさこそが彼女の特別な魅力であり、ファンだけではなく様々なアーティストをも惹き付ける理由でもある。



そんな彼女の魅力は、恐るべきことに2017年のデビュー・アルバム『CTRL』の時点で見事に一つの作品として結実している。以前の抽象的なサウンドや言葉選びは鳴りを潜め、サウンドは多様でありながらいずれも極めてクリアに磨き上げられ、その歌声は常に明確な意思を持って力強く響く。一見すると迷いのない、デビュー・アルバムらしい自信に満ちたR&B作品として楽しむことが出来る本作だが、その中に込められた感情はこれまでにないほど率直で、分かりやすく、そして激しく揺れ動いている。

ある時はセックスのことしか考えない無能な男に対して大胆かつ痛快に糾弾することもあれば(「Doves In The Wind」)、時には恋愛において、自らの外見や性格が相手にとって魅力的ではないのではないかと不安に抱くこともある(「Garden (Say It Like That)」)。以前のように他人に振り回されることのないマシな生活を選択した自分を肯定する一方で(「Broken Clocks」)、自身の20代が終わりに近づきながらも、周りと比べて成熟しているとは思えない自分自身の姿を見つめながら頭を抱えてしまう(「20 Something」)。





一見すると相反する感情を歌っているようにも思えるかもしれないが、現代のリスナーはこの「二面性」に深く共感し、瞬く間に絶大な支持を集めることになった。単に外側へと向けた大胆でキャッチーな言葉を並べるだけではない、その背景にある正直な感情をも描いたSZAの姿に、多くの人々が本当の意味での「リアル」を見出し、深く共感したのである。

本作にも参加しているケンドリック・ラマーは、客演した「Doves In The Wind」の自身のヴァースを次のように締め括り、SZAへとマイクを繋いでいる。

“ソラーナ、中指を立てて本当のことを言ってやれ(Solána, middle fingers up, speak your truth)”

現代のヒップホップ・シーンの先頭に立ち、「リアル」を示し続けてきたケンドリックがこのような言葉を放つことが、彼女に対して抱く信頼の何よりの証明であるとも言えるだろう。

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