「性的にポジティブ」を体現するラップスター、カーディ・Bの魅力とは? 辰巳JUNKが解説

アメリカン・ポップカルチャーにおける「到達点」

カーディ・Bがチャートトップ圏に出現する2010年代には、女性による性表現のフェミニズム的解釈が促進された。たとえば、レディー・ガガは「Born This Way」等のポップヒットを通して、ジェンダーイシューを筆頭とする人権意識、そしてアイデンティティポリティクス概念を広めた。ビヨンセの場合、「白人層向けにパッケージングされた表現」が求められがちであった米国市場のスーパースターの立場で「惜しみなき」ブラックカルチャー、そして黒人女性としてのフェミニズムおよびセクシャリティを表現したことで、シーンの多様性を開拓した存在として評価されている。また、2010年代中盤、ラップとポップのクロスオーバーを牽引したニッキー・ミナージュによる「Anaconda」やメーガン・トレイナーのヒット「All About That Bass」を軸に起こったさまざまな体型の肯定、ボディポジティブ旋風も忘れてはいけないだろう。これらの流れにメガポップスターとして暴力描写を行いオルタナティブな表現を切り拓いたリアーナの存在も加わって、2010年代後半には、「thank u,next」でキューティ、フェミニンなスタイルでフェミニズム・プライドを提示するアリアナ・グランデ等がシーンの中心を担った。

2017年に初のナンバーワンヒットを記録したカーディ・Bは、このような大衆音楽シーンの潮流のなか生まれたラップスターである。つまるところ、ダイバーシティ意識と「性的ポジティブなフェミニズム」が定着した今日のチャートヒットシーンにおいて、最初から自らの性的欲求をパワフルに誇るパブリックイメージを築いたスターがカーディなのだ。「カーディ節」と言うべく作家性は、米国の黒人女性トップミュージシャンの系譜からすれば100年以上の歴史を持つスタイルの類型である。同時に、ラップを含む広義のポップシーン観点からすれば、その存在はひとつの「到達点」である。これまで白人アクトが担うことが多かったグラミー賞メドレー・パフォーマンスのような大舞台で、彼女ほどダイナミックかつストレートに「性的にポジティブ」なパフォーマンスを行った女性アーティストは初なのではないか。だからこそ、カーディ・Bの存在は、保守派といった属性ラベルを用いずとも、多くの人々に衝撃を与えるのだ。

惜しみなく自らの性的魅力を誇るカーディ・Bは、アメリカン・ポップカルチャーにおける「到達点」たるスーパースターなのである。他者の追随を許さない「到達点」だらこそ、作風を大きく変えない限りは、今後とも衝撃と革新を巻き起こしつづけるだろう。言い換えれば、2021年現在、音楽シーンを牽引するトップアーティストとして、「Up」の口切りそのままの上昇気流にある。“Up, up, up (Ayy), up (Uh), up, look (This is fire)”

■「WAP feat. ミーガン・ザ・スタリオン」

ダウンロード / ストリーミングはこちら:https://CardiBJP.lnk.to/WAPMe

■「Up / アップ」

ダウンロード / ストリーミングはこちら:https://CardiBJP.lnk.to/_UpMe

ミュージック・ビデオ(日本語字幕付き)



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