「性的にポジティブ」を体現するラップスター、カーディ・Bの魅力とは? 辰巳JUNKが解説

カーディ・Bが2020年代のスーパースターである一因

何故、カーディ・Bはここまで賛否両論、ひいては一定数から拒否反応を巻き起こすのだろうか。もしかしたら、そこにこそ、カーディ・Bが2020年代のスーパースターである一因が潜んでいるかもしれない。

「おぞましく品のない「WAP」によって、女性のジェンダーは100年後退させられた」。リリース当時、元カリフォルニア州共和党議員候補ディアナ・ロレインによる同批判ツイートは注目を集めたが、この「100年」という表現を逆手にとる論評も出てきている。セックスワーク研究を専攻とするケイト・リスター博士は、inewsにて、約100年前よりマ・レイニーら米国の黒人女性ダーティブルース歌手が「WAP」に通ずる表現を行っていることを指摘している。これはある種、ここ数十年に限っても同様だろう。露骨かつ強気な性表現スタンスは、1970年代に始まったヒップホップ文化の伝統だ。Okayplayerにおいては、1980年代楽曲「Don’t Fight the Feelin」において強引に誘うToo Shortをはねのけるラップを披露したBarbie、Enticeを初期例として、1990年代のSalt-N-PepaやTLC、BytchesWith Problems、リル・キムらの存在が挙げ連ねられている。「WAP」が批判を呼んだ際、客演のミーガンは「TearDa Club Up Thugsの1999年楽曲「SlobonMyKnob」で盛り上がるような人々がこの曲に騒ぐのか」といったニュアンスの反論を行ったが、同グループの大元であるThree 6 Mafiaの女性メンバー、Gangsta Booにしても、世紀末に「Suck A Little Dick」なるトラックをリリースしている。カーディ・B自身も「WAP」について「あの程度の表現で議論を生むとは想像していなかった」思いを明かしているが、ヒップホップカルチャーの歴史、そして今でも男性ラッパーによる性的描写を含んだヒットが多いことを踏まえれば、不思議ではない反応だ。

一方、カーディ・Bは、ラップミュージックがポピュラーミュージックの本流となった今日を象徴するスターでもある。ならば、彼女の性表現は、広義のポップスターとしてはどうなのだろうか。元来、1980年代にキリスト教保守のみならずフェミニズム方面から批判されたマドンナを筆頭に、ポップシーンにおいても女性による性表現は行われつづけてきた。21世紀に限定しても、ヴァージニティを強調するマーケティングに反抗したクリスティーナ・アギレラ「Dirrty」といったヒット作がある。

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