「性的にポジティブ」を体現するラップスター、カーディ・Bの魅力とは? 辰巳JUNKが解説

カーディ・B(Courtesy of ワーナーミュージック・ジャパン)

今となっては、第63回グラミー賞の真の勝者はカーディ・Bだったかもしれない。2021年3月、アメリカで文化現象級ヒットとなった「WAP」を同アワードにエントリーしなかった彼女は、放送直前にパフォーマンス出演を発表した。そして当日、ピンクの西洋甲冑のような衣装で新曲「Up」を披露。つづけてステージに巨大ハイヒールと巨大ベッドを出現させ、客演ミーガン・ザ・スタリオンとともに「WAP」を披露するインパクトによって、みごとその夜の主役の一人として君臨してみせた。

結果は上々である。グラミー効果も働いて「Up」はBillboard HOT100のナンバーワンにのぼりつめた。これにより、カーディは5つのナンバーワンヒットの持ち主となった。ラップアーティストとしてエミネム、ディディ、リュダクリスと並ぶ歴代2位タイの記録を、2017年「Bodak Yellow」による初首位からたった4年で成し遂げたのだ。エントリーおよびノミネーション無しであることを考えれば、米音楽界最高権威とされるグラミー賞を不戦勝したことになる。

「WAP」と「Up」の二連続ナンバーワンは、スーパースターとしての地位を決定づけたとともに、大衆音楽シーンにおける「カーディ節」を確立したとも言える。その作家性は、件のグラミー賞パフォーマンスを観れば歴然だ。まず、同二曲に共通する、女性としてのセクシャリティ、エロティシズムを威圧的なまでに誇る姿勢。経済的苦境に立たされるなか就いたストリッパーの経歴、そして自らの性的魅力を用いる「金稼ぎ」を肯定する価値観も表現者としての核をなしている。ティーンの頃より指針にしていたレディー・ガガに倣うような演劇的ステージ、および浮世離れした派手なヴィジュアルも彼女ならではだ。

加えて、カーディの表現の反応、受容面として「賛否両論の話題性」があげられる。日本語字幕つきミュージックビデオで一目瞭然だが、2020年夏にリリースされた「WAP」は、女性たちが赤裸々にセクシャリティを誇る内容によって大きな議論を巻き起こした。ざっくりわけるなら、女性がみずからの性を誇る「性的にポジティヴ」なフェミニズムとしての肯定意見、対極に、女性の社会的立場、子どもの教育面での悪影響を唱える保守派の否定意見の2つが相対する政治的対立に及んでいた。それから半年経った2021年3月にも、グラミー賞パフォーマンスで議論が再熱。カーディとミーガン、女性同士が巨大ベッドの上で足を絡ませあう演出を特段問題視した保守派番組FOXニュースで特集、糾弾されたことで、カーディ本人がツイッター上で活動家キャンディース・オウェンスと意見をぶつけあう騒動にまで発展している(現在カーディ側は投稿を削除済)。



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