北欧ブラックメタル「血塗られた名盤」 メイヘムのメンバーが明かす壮絶な制作秘話

メイヘム(Courtesy of Ecstatic Peace Library © Jørn "Necrobutcher" Stubberud)

映画『ロード・オブ・カオス』の日本上映がスタートし、メイヘムと北欧ブラックメタルの黒歴史が再び注目を集めている。放火、殺人、自殺……狂乱の日々を過ごしながら、メンバーはどんなことを考えていたのか。その後のブラックメタルに決定的影響を与えた、1994年の1stアルバム『De Mysteriis Dom Sathanas』(邦題:狂魔密儀)が完成するまでの道のりを振り返る。(※US版記事初出:2017年2月9日)

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「俺たちは大嫌いな愛と優しさを謳う音楽に拒絶された」と、ヤン・アクセル・ブロンベルクが言う。彼はノルウェーにおけるブラックメタルのパイオニア的バンド、メイヘムのドラマーで、ヘルハマーのステージネームでよく知られている。「作りたかったのは、そういう音楽とは完全に対局のものだったのさ」と彼は続ける。

ヴォーカルのアッティラ・シハーは強いハンガリー語訛りの英語で次のように言う。「人生には良いこともたくさんあると思う。毎朝太陽が上るし、陽の光は美しいし、自然もあるし、家族もいる。でも、今現在、世界で起きていることに目を向けると……俺たちは戦争と人民を操作する政府だらけの精神病院みたいな場所で暮らしているのさ。だから、その暗闇を理解して受け入れることが俺の人生ってわけだ」

20年以上前のことだ。メイヘムは当時、ヘルハマー、シハー、そして当時のバンドメンバーの心に響く漠然とした不安を放射するようなアルバムをリリースした。これが『De Mysteriis Dom Sathanas』で、オリジナルタイトルは「神サタンの秘密の儀式」といった意味だ。この作品の中で歌われる歌詞は、巨大化する暗闇、底なしの悪の巣窟、異教への恐怖、自らの破滅を語るために帰還する死に損ない等など。(エドガー・アラン・)ポーをサイドディッシュにした(ブラム・)ストーカー的な世界観で、激しく喚くゴシックギターと断末魔のようなドラム、独自の音風景の最前線で、シハーの怒鳴り声、唸り声、オペラチックな歌声というアバンギャルドなヴォーカルコンボが歌詞を吐き出す。このアルバムが一つの世代の過激な音楽の雛形となり、不満を抱えた大勢のヘッドバンガーたちが黒い衣装に身を包みはじめ、文字通りサタンを称賛し始めた。しかし、ここで忘れていけないことは、そんな神話的存在のこのバンドが、当時一度もツアーをできなかった事実である。



1993年8月、同アルバムの発売を予定されていた頃、メイヘムの当時のベーシスト、ヴァルグ・ヴィーケネス(当時はカウント・グリシュナックと言っていた)が、バンドメンバーのギタリスト、オイスタイン・オーシェト(ステージネームはユーロニモス)を23回も刺して殺すという残忍な殺人事件を起こした。ヴィーケネス曰く、原因は契約上のいざこざ。この殺人事件によって事実上バンドは終焉を迎えた。短期間の間に続けざまにブラックメタル・バンドが起こしたノルウェー国内の複数の教会への放火および無関係な殺人事件の報道と相まって、ブラックメタルはギャングスタ・ラップ以後、最も危険な音楽ジャンルという地位を獲得した。ヘルハマーが1994年春にやっと同アルバムのリリースに漕ぎ着いた頃には、メイヘムのメンバーで残っていたのは彼だけになっていた。メイヘムは90年代半ばにメンバーを替えて再結成し、現在ではライブで『De Mysteriis Dom Sathanas』を演奏できるラインナップで、血塗られた過去と音楽を分離している。



メイヘムはこのアルバムの楽曲をライブ演奏するワールドツアーを2015年に開始し、ライブ録音盤『De Mysteriis Dom Sathanas Alive』をリリースした。これはノルヒェーピングで行われたスウェーデンのブラック・クリスマス・フェスティバルでの音源で、同アルバム収録全曲の初ライブ演奏が記録されたのだった。

現在(2017年当時)、彼らは北米ツアーの最中で同アルバムの曲だけを演奏している。法衣風の衣装に身を包んだギタリストのテロックとグール、オリジナル・ベーシストのネクロブッチャー、その中でひと際目立つ腐った肉体の生ける屍のような病的な衣装のボーカリスト、シハーが、壮大でシアトリカルなステージを披露する。この異世界のような体験にシハーは鳥肌が立つ。特に自分がこのステージに立つまでの道程を振り返ったときに。

Translated by Miki Nakayama

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