オルタナを蘇らせるUK大型新人、ドライ・クリーニングの映画みたいな結成物語

ドライ・クリーニング(Photo by Rosie Alice Foster for Rolling Stone)

イギー・ポップも賛辞を送るサウスロンドンの4人組、ドライ・クリーニングが名門4ADからデビューアルバム『New Long Leg』をリリースした。ポストパンク/オルタナの美学を継承し、アートな佇まいで異彩を放つ彼ら。独自のスタイルを確立したきっかけは、音楽経験が全くない人物をヴォーカリストに迎えたことだった。

フローレンス・ショウは幼い頃、牛が大好きで、家のあちらこちらに牛の写真や絵を貼っていた。その頃、彼女の家族はロンドン南東部にある老朽化した大きな家に住んでいたが、やがて家中が牧草地で草を食む牛の群れだらけになってしまった。「牛が好き過ぎて、何でもかんでも牛だった」と、今は大人になった彼女が振り返る。「マグカップや鉛筆から湯たんぽまで牛の柄で、ぬいぐるみなんて星の数ほどあったわ」

彼女曰く「見た目は中流階級」だが実は貧乏な環境で育ったショウは、自らの情熱の赴くままに生きるように躾けられた。10代になって牛にも飽きると、今度はオアシスのアルバム『(What’s the Story) Morning Glory?』を繰り返し聴くようになる。それから「悲しくなるほど熱狂的なザ・ストロークス・ファン」へと移行した。途中には、ニュー・メタルやゴスの時代も経験している。「いつでも何かに夢中になっていた」と彼女は振り返る。「全身黒ずくめの服を着てしばらく屋根裏でゴロゴロしていたかと思えば、次の瞬間には別のことに夢中になっているようなタイプなのよ」



現在のショウは、好奇心旺盛で移り気な性格を活かして、ロック史に残るエキサイティングなバンドのリードヴォーカリストを務めている。ドライ・クリーニングのデビューアルバム『New Long Leg』は、2021年4月2日にリリースされた。バンドが2019年にリリースした2枚のEPは、まるで別の星から来てテレパシーを操る爆竹のような衝撃だった。ショウの繰り出すユニークな叙情的スタイルのおかげで、ドライ・クリーニングは、21世紀に誕生した多くのイギリスのギターバンドとは一線を画している。シングル曲「Strong Feelings」(2021年)に代表されるように、トム・ダウス(Gt)、ルイス・メイナード(Ba)、ニック・バクストン(Dr)の奏でる陰湿で重々しいサウンドに乗せて、ショウが静かで暗いトーンで呟く支離滅裂とも言えるモノローグがバンドの特徴だ。“死んだものをコレクションするエモな奴 / あらゆることが頭をよぎる / 17ポンドでマッシュルームを買ってあげる……もう何時間もホットドッグを食べようか考えている……”と彼女は歌う。歌詞の内容は曖昧なものもあれば、驚くほどストレートなものもある。時には際どい内容や、非常に滑稽な歌詞もある。そして流れる音楽には、常に激しい感情が満ちている。3人の経験豊富なロッカーとバンド経験ゼロの1人の人間が、型にはまらない目新しいコンビネーションを生み出した。

「これが現実だなんて信じられない」とショウは言う。「これが私の職業だなんて、すごく妙な感じ。でも不思議としっくり行っている。もっと早くに取り掛かるべきだったのかもしれないわね」

Translated by Smokva Tokyo

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