これからの音楽業界を救う「ポストサブスク」 新しい方法論と日本はどう向き合うべきか?

榎本幹朗(Courtesy of blkswn)

『WIRED』日本版前編集長の若林恵が主宰するコンテンツレーベル、黒鳥社による「blkswn jukebox」。その編集委員である若林と小熊俊哉が、音楽シーンのキーマンに話を訊く新たなトーク配信企画が「Behind the Scene」だ。

「Behind the Scene」の第2回は、『音楽が未来を連れてくる 時代を創った音楽ビジネス百年の革新者たち』(DU BOOKS)の著者・榎本幹朗を迎えて、「音楽の最先端からビジネスと社会の未来を見通す」というテーマについて語った。『音楽が未来を連れてくる』は、音楽産業が産声をあげたトーマス・エジソンの時代から、サブスクリプションサービス全盛期の現在、最新の音楽ビジネスを扱う中国企業テンセントが提示する未来まで、音楽のビジネスモデルとテックイノヴェーションの関係性について見通した大著。榎本は、音楽産業はイノヴェーションによって何度も危機を乗り越えてきた、と語る。

本稿では、その「Behind the Scene #2」のダイジェストをお届けしよう。全編は、ぜひYouTubeのアーカイヴでご覧いただければと思う。

【動画を見る】「Behind the Scene #2 榎本幹朗」YouTubeアーカイヴ映像


榎本幹朗(えのもと・みきろう)
1974年東京生。作家・音楽産業を専門とするコンサルタント。上智大学に在学中から仕事を始め、草創期のライヴ・ストリーミング番組のディレクターとなる。ぴあに転職後、音楽配信の専門家として独立。2017年まで京都精華大学講師。寄稿先はWIRED、文藝春秋、週刊ダイヤモンド、プレジデントなど。朝日新聞、ブルームバーグに取材協力。NHK、テレビ朝日、日本テレビにゲスト出演。


サブスクが救世主になるまで

若林:今日は「blkswn jukebox」の新シリーズ「Behind the Scene」の第2弾ということで、『音楽が未来を連れてくる 時代を創った音楽ビジネス百年の革新者たち』の著者・榎本幹朗さんをお迎えします。榎本さんとは、『WIRED』の特集「これからの音楽」(2014年)でご一緒しました。今回『音楽が未来を連れてくる』の帯文を書かせていただいて、非常に光栄でした。

榎本:素晴らしい帯文を書いていただきました。「テックイノヴェーションの最前線は『音楽』にある。この100年ずっとそうだったし、これからもそうだ。音楽ビジネスが見えないあなたは、デジタルビジネスすべてから取り残される」。



若林:音楽が最初に新しいテクノロジーを活用して、映画など他のカルチャーがそれを追いかけていく、という印象があるんですよね。

榎本:2017年から、サブスクブームが起こったじゃないですか。サブスクって、たぶん音楽がいちばん早いんです。アメリカのメジャーレーベルが先導して、定額制ストリーミングサービスが誕生したのが2001年末頃。それに先駆けたのがファイル共有のNapsterで、今では当たり前になった「聴き放題」を初めて人類にもたらしたのはNapsterでした。それが、音楽の聴き方すら変えてしまった。Napsterの生み出した聴き放題をいかに合法化するか、と考えて「ストリーミングのサブスク」という答えに音楽産業は20年前にたどり着いた訳です。

でもその頃、サブスクはうまくいきませんでした。今はレコード会社にもCTOがいますが、当時はコンテンツ屋だったので、テクノロジーに関して素人だったんです。しかも、レコード会社同士で喧嘩して楽曲を融通し合わなかった。それでスティーヴ・ジョブズがiTunes Storeを提案してうまくいったので、サブスクはオワコン扱いとなり日の目を見なかったのですが、Spotifyによってサブスクブームが起こった。そういう流れです。

サブスクを復活してくれたのがiPhoneで、iPhoneによってニッチなサービスだったサブスクが突然、救世主になった。僕は2000年頃からライブ配信や音楽のストリーミングに関わっていたのですが早すぎて、うまくいきませんでした。未来が見えていても、それを実現するハードウェアがいつ誕生するか、見えていなければ意味がないんです。僕はクリエイター上がりの人間だったので、その考えがありませんでした。この本は「あの時どうすれば上手くいったのだろう」といろいろ学んでいくうちに勉強した結果です。


スティーブ・ジョブズ、〈さようなら、そして、ありがとうiTunesーー音楽をデジタル時代へと牽引したAppleの功績〉より(Photo by Paul Sakuma/AP/Shutterstock)

若林:過去についても同じことを言えるのでしょうか?

榎本:そうですね。1930年頃、アメリカでラジオが普及し始めました。ラジオは元々軍事の無線技術でしたが、「放送の父」と呼ばれる(デイヴィッド・)サーノフが無線機を普及させるにあたって考えたキラーコンテンツが音楽です。

その頃、エジソン・レコードという世界初のレーベルがあったのですが――エジソンって、レコード産業の父でもあるんですよね――、売上が下がっていました。当時の蓄音機は蝋管を使っていたので音が良くないのですが、ラジオはエレクトロニックなので音質の劣化がない。レコードの値段も今の感覚でいうと1万円ぐらいしたので、人々はそんなにたくさん買えなかったのですが、無料で聞けるラジオの方が音は良いし、コンテンツも豊富なので、音楽好きはラジオを買う、という流れになった。

結果、ラジオの普及によって、レコードの売上は25分の1になりました。インターネットによる音楽不況を遥かに超えたインパクトだったんです。その後20、30年かけて音楽産業はイノヴェーションを重ね、レコードは持ち直したわけです。だから、後輩の僕らも、イノヴェーションを生む創造性を忘れなければ、どんな危機が来ても復活できるんだ、勇気を持って、ということを書いたのがこの本の第1章です。

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