『ノマドランド』クロエ・ジャオ監督、ジャーナリズム精神で社会に寄り添う映画づくり「人間って本当に面白い」

ジャオがここ数年温めてきたプロジェクトのひとつに、バス・リーブスの伝記映画がある。バス・リーブスとは、1800年代後半にミシシッピ川の西側のオクラホマ準州でアメリカ初の黒人の連邦保安官となった人物だ。リーブスの物語は、デイモン・リンデロフが製作総指揮をとったドラマシリーズ『ウォッチメン』において重要な役割を果たし、原案のヒーローは黒人だったという着想によって従来のドラマ観を覆した。だがジャオは、リンデロフに先制パンチをお見舞いされたからといって、怒ってはいない。リーブスについて語るべき物語は山ほどあるのだから。

「もっと多くの映画やテレビ番組がリーブスを取り上げてくれることを期待しています」とジャオは言う。「すっかり過去の人物になってしまいました。それに、リーブスの若い頃の具体的なエピソードもあまり残っていません。現在のオクラホマ州である先住民の土地は当時、“無法地帯”と見られていましたから。ですから、さまざまなバックグラウンドを持つ人々がそこに集まりました。まさに人種のるつぼだったのです。それだけでなく、厳しい環境でもありました。だから緊張感に満ちていた一方、政府が介入してルールを設ける前は、人間同士の協働が多く見られたのです。これは、アメリカの素晴らしい点であり、私たちはこのことを忘れてはいけません。古き良きアメリカ西部の終わりという時代の何らかのエッセンスを探究し、表現できたら最高ですね」

その前に、ジャオの世界観による『エターナルズ』の公開が私たちを待ち受けている。同作は、MCUのフェーズ4の要となる作品だ。はやくも同作は、マーベル・スタジオが初の同性愛者のヒーローを登場させると公言したことで話題を呼んでいる。それに莫大な予算と豪華絢爛なキャスト(アンジェリーナ・ジョリー、サルマ・ハエック、クメイル・ナンジアニ、ブライアン・タイリー・ヘンリー)といった組み合わせが親密で自然なジャオの描写とはかけ離れていると思う人は、どうか考え直してほしい。

「クロエ(・ジャオ)は、小規模でパーソナルな優れた作品を見事に作り上げるだけでなく、宇宙規模のとてつもなく壮大な考え方を持っています。それは、まさに私たちが探し求めていたものです」と、マーベル・スタジオのトップであるケヴィン・ファイギ社長は述べた。ファイギ氏は、ここまで見事なアイデアに出会ったことはないと、ジャオを絶賛する。「『エターナルズ』は、数千年にわたる壮大で幅の広い物語です。でも彼女はそれをやってのけました」

『エターナルズ』のヒーローたちは不死身の異星人かもしれないが、ジャオは観る人がそれをリアルかつ実験的だと感じてほしいと思っている。「登場人物たちと一緒にその空間を体験しているような」感覚をオーディエンスに味わってほしいのだ。実際ジャオは、『ノマドランド』と同じ手法で『エターナルズ』を撮影した。たしかに超一流の俳優たちが目白押しだが、演者との対話や人間らしいタッチといったジャオの鉄板アプローチは健在だ。

「演じている人の個性が最大限に生かされるよう、いつも全力で闘います」と言う。「大規模なものであれ、小規模なものであれ、今後もこうした方法で映画を撮りつづけたいです。だって、いつも思うんです。人間って本当に面白いなって。そう思いませんか?」

Translated by Shoko Natori

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