マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン再始動、シューゲイザーの伝説を今こそ紐解く

マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(Photo by Paul Rider)


今こそ振り返りたい『m b v』の真価

そんな中、突如リリースされたのが2013年の3rdアルバム『m b v』だ。2月3日深夜(UK時間)にバンドの公式サイトがリニューアルし、LP、CD、DL版という3通りのフォーマットが用意された。サイトにはリニューアルと同時にアクセスが殺到、あっという間にサーバーがダウンする騒ぎもあったが、数時間後には多くの人が、待望の新作を手にした喜びをSNSに書き込んでいた。世界中の人たちと、MBVの新作を同時に聴く喜びでワクワクしたあの日のことを、おそらく筆者は一生忘れないだろう。

『m b v』は1995年から1997年の間、ケヴィンがビリンダと共に、自宅のレコーディング・スタジオで録りためていたアイデアの断片が基となっている。一度「お蔵入り」しかけたそれらの音源を、2011年に行われた『Isn’t Anything』『loveless』のリマスター作業の際に偶然聴き直す機会があり、ソロ名義でのリリースも考慮に入れながらブラッシュアップしていった結果、MBVの新作へと発展していったという。


『m b v』ジャケット写真

当時ケヴィンは『m b v』について、ビーチ・ボーイズの『Smile』を引き合いに語っていたこともあった。過去に録った様々な断片を現代の解釈で組み合わせ、そこに新たなギターやボーカル、その他の楽器を重ねることでタイムレスな響きを生み出している本作は、2011年頃に行われていたビーチ・ボーイズの『The Smile Sessions』プロジェクトと、確かに通じるところもあるのかも知れない。

リリース当時の狂騒から離れて本作を聴いてみると、改めて思い知らされるのはケヴィン・シールズの「ソングライター」としての類まれなる才能である。これまでの作品では、革新的なギター・サウンドやフィードバック・ノイズの影に埋もれがちだったメロディラインが、本作では比較的前に出ているのも特徴的。例えば「Is This And Yes」は、『Pet Sounds』期のブライアン・ウィルソンとそのフォロワーたち(ステレオラブ、ハイ・ラマズら)をも彷彿とさせる、モンドな仕上がりが印象的だ。



また、ライブでは珍しくデビーがコーラスを取る「New You」は、メジャー7thコードの洗練された使い方がバート・バカラックのようでもある。元々ケヴィンはビートルズやラモーンズ、ザ・フーがヒーローで、子供の頃はTVから流れていたハリウッド映画の音楽に、無意識のうちに影響を受けていたという。彼独特の、浮遊感たっぷりのメロディラインやコード展開は、そうした音楽体験も少なからず影響しているのかもしれない。

「確かにバート・バカラックの影響もあるし、さらに遡るとボサノヴァからの影響が、バカラックを通じて入ってきているとも思う。あと、これは奇妙に感じるかも知れないけど、プリンスの影響もあるんだよね。実は『New You』のメロディの半分は、カート・コバーンが亡くなった後に書いたものだ。僕は彼の訃報を聴いてものすごくショックを受け、しばらくそのことばかり考えていた。カートのような立場にもし自分がなったら……などと考えてしまってね。だから、ある意味でこれは“死”についての曲でもあるし、別れの曲でもある。死者への別れではなく、生者に対する死者からの別れのような。そういう死生観を歌った曲に仕上がったよ」
※2021年 公式インタビュー ケヴィン・シールズ

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