インコグニートのブルーイが語る、ブリット・ファンクとアシッド・ジャズの真実

ブルーイ(Photo by Casey Moore)

インコグニートのリーダーであるブルーイが、DJのジャイルス・ピーターソンと新プロジェクト「STR4TA」(ストラータ)を結成。彼らがリリースした1stアルバム『Aspects』にはすっかり驚かされてしまった。二人はここでブリット・ファンクを蘇らせているのだ。

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ブリット・ファンクとは70年代末~80年代初頭、ジャズやファンク、ソウル、ディスコなどを取り入れたバンドによるシーンの総称。後年のアシッド・ジャズに引き継がれるだけでなく、ニューロマンティックやニューウェイブ、ファンカラティーナなど、当時のUKシーンに広く影響を与えた。

ブルーイが率いたインコグニートは、1990年にジャイルスの主宰レーベルであるトーキン・ラウドに参画。ジャミロクワイと共にアシッド・ジャズを象徴するバンドとして知られている。しかし実は、彼らが最初のアルバム『Jazz Funk』をリリースしたのは1981年で、インコグニートはブリット・ファンクの時代から活躍してきたバンドでもあった。ブルーイは他にもブリット・ファンクを代表するバンドに出入りしていた、シーンにおけるキーマンの一人。ブリット・ファンクとアシッド・ジャズを繋いだ人物であるとも言えそうだ。

そこで今回はブルーイに、前史にあたる70年代のブリティッシュ・ファンク、80年代のブリット・ファンク、90年代のアシッド・ジャズ以降について、当時の状況や音楽・文化的背景、各時代の相互関係に至るまで語ってもらうことに。彼が明かしたエピソードの数々には、UKクラブカルチャーの本質が詰まっており、個人的にもさまざまな疑問が氷塊するようなインタビューとなった。ここでの話を踏まえてSTR4TAの音楽を聴けば、そこに込められた意図や文脈の深さがきっと理解できるはずだ。



―STR4TAを始めたきっかけから教えてください。

ブルーイ:実は、僕とジャイルスが40年前に初めて会った時から始まっていたとも言えそうだね。僕らは友人だったし、彼とはいろんなところで仕事してきた。僕はインコグニートとして、彼のレーベル「トーキング・ラウド」と契約していたこともある。でも、ジャイルスが僕らをプロデュースすることはなかったし、アイデアを出し合ったりもしてこなかった。いつも一緒に音楽を作ろうと話していたのにね。だから、それがようやく実現したのがSTR4TAなんだ。

ジャイルスと僕は、昔からイギリスの音楽についてよく話していた。最初はアヴェレイジ・ホワイト・バンド、ゴンザレス、ブライアン・オーガーズ・オブリヴィオン・エクスプレスといった70年代のブリティッシュ・ソウルのシーンについて。その次は70年代末〜80年代初頭に起きたブリット・ファンクと呼ばれるムーブメントについて。当時、僕はそのムーブメントの一員で、ジャイルスは若いDJだった。


ブルーイとジャイルス・ピーターソン(Photo by Casey Moore)

ブルーイ:ブリット・ファンクはアメリカのファンクやソウルへの憧憬とともに、ロンドンのエナジーも聞こえてくる音楽だった。具体的に言うとロックンロール、さらに言えばパンクのメンタリティだね。ブリット・ファンクは若くてイノセントでハイエナジーなユース・カルチャーだった。僕はそのシーンの一員として、フリーズ、ライト・オブ・ザ・ワールド、インコグニートで演奏していたんだ。

僕はシーンにいたからブリット・ファンクの作り方を熟知しているし、ジャイルスはブリット・ファンクのヴァイナルを集めていたから、プロデューサーとして参照点を提示することができた。だったら、僕らでブリット・ファンクのプロジェクトをやったら面白そうだという話になった。それが出発点だね。


インコグニートの1stアルバム『Jazz Funk』(1981年)



―これまで40年も実現しなかったのに、なぜ今なんですか?

ブルーイ:パンデミックだよ。これまでは(ツアーなどで)時間がなくて、なかなか出来なかったからね。ジャイルスは近所に住んでいるから、公園でコーヒーを飲みながら、新鮮な空気とゆったりとした時間の中での会話がすごく心地よかったよ。

―STR4TAというプロジェクト名の由来は?

ブルーイ:宇宙っぽいというか、アウタースペースのイメージだね。この言葉には「雲のレイヤー」みたいな意味もある(※)。ブラウンズウッドの若いスタッフが「Aを4にしよう」と提案してくれたりして、結果的にこうなったんだ。


※筆者注:ブリット・ファンクの重要バンド、アトモスフィアのイメージに近いのかもしれない。上掲のアルバム『En Trance』のアートワーク、代表曲「Dancing in Outer Space」も参照。



―このプロジェクトで音楽的に意識していることは?

ブルーイ:重要視していたのはローファイなサウンド。ジャイルスは「Less is more」とよく言ってたよ。僕らはフュージョンではなく、ストレートなファンク特有の生々しいサウンドを目指すことにした。そのために、昔からブリット・ファンクを知っているミュージシャンと、若いミュージシャンの両方を集めたんだ。STR4TAにとって重要なのは、あの時代のブリット・ファンク・サウンドを作り出すことだった。ジャイルスと僕の使命は、当時のレコーディングや演奏を経験したことのないミュージシャンたちにあの時代の音を教えることだった。

ただし、過去のスタイルに立ち戻ってはいるけど、昔のサウンドをコピーするのではなく、モダンな新鮮さを持たせるように意識している。そのためにもジャイルスの知識とディレクションが必要だった。スタジオの中で「ダブっぽいエコーを加えたほうがいい」「BPMを上げたほうがいい」とか、実際にレコードをかけて「磨きすぎだ」「スクエア過ぎる」「もっと緩く」と指示したりとか、そういうディレクションが効いているからリアルでフレッシュなものになったと思う。

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