インコグニートのブルーイが語る、ブリット・ファンクとアシッド・ジャズの真実

ブルーイ(Photo by Casey Moore)


ブリット・ファンクが繋いだ過去と未来

―90年代にインコグニートがトーキング・ラウドと契約したとき、ゴンザレスのメンバーだったリチャード・ベイリーとバド・ビードルが加入しましたよね。UKではゴンザレスだけでなくリアル・シング、ココモなど、70年代からソウルやファンクを演奏するバンドが活躍していました。彼らとブリット・ファンクやアシッドジャズはどんな関係にあったのでしょう?

ブルーイ:彼らは僕たちの師匠だよ。まだ若すぎてパブには入れなかった僕は、彼らの演奏が始まるとレンガを持ってきてその上に立ち、窓の外からバンドの演奏を眺めていた。演奏を終えたリチャード・ベイリーがパブから外に出てくると、僕は彼に近寄って「大ファンです! いつか僕がバンドを作ったらドラマーになって下さい!」なんて伝えた(笑)。そして家に帰ると、洗車や庭師をして稼いだ金を貯めて買ったゴンザレスのアルバムを聴いていたんだ。ジェフ・ベックの『Blow By Blow』を聴いて、そこにリチャードが参加しているのを知ると、「リチャード、あの曲で使ってるスネアは何?」なんて聞いたりもした。彼は困ってたけどね(笑)。僕は将来、絶対一緒にコラボしようと彼らにずっと言い続けていた。そしてある日、リチャードに電話したら「素晴らしいプロジェクトだな」と言ってくれて、彼はインコグニートのドラマーになったんだ(笑)。


ゴンザレスの1stアルバム『Gonzalez』(1975年)




インコグニート「Still A Friend Of Mine」(1993年)、ドラムはリチャード・ベイリー

ブルーイ:僕にとって、リチャードを起用するというのは重要なことだった。他のドラマーにはない彼特有のグルーヴが絶対にほしかったから。後年になって、僕がずっと魅力を感じていた彼独特のエナジーは、彼の出身地であるトリニダードのカーニバルで、幼い頃からドラムを叩いていた経験から生まれたものだと知った。多くのドラマーはエネルギーやスピードを落とそうすると、同時にグルーヴもなくしてしまう。それをなくさずに生かし続けられるのがリチャードなんだよ。ボリュームを落としながらも人々を踊り続けさせるという技を極めているからね。

彼らの音楽は、ブラジルやラテンアメリカの音楽に影響を受けていた。例えばゴンザレスは、キューバのリズムもジャズ・ファンクもプレイしていた。彼らはイギリスで一番のグループで、ロック、ジャズ、ポップと様々なミュージシャンたちとセッションしていたんだ。だから僕はジム・マレン(※)もフォローしていた。ジムは後に僕のバンド、シトラス・サンでプレイするようになる。レコード・コレクターがレコードを集めるのと同じように、僕はミュージシャンを集めるんだ。起用したいと思ったミュージシャンが生きていれば連絡する。例えば、イラケレ。彼らは史上最高のキューバン・バンドで、インコグニートの「Fearless」でホーンを演奏している。僕はコレクターだから、その曲に一番適したサウンドを使いたいんだ。

※アヴェレイジ・ホワイト・バンドやココモ、ブライアン・オーガーズ・オブリヴィオン・エクスプレスなどに参加してきたギタリスト


アヴェレイジ・ホワイト・バンドの2ndアルバム『AWB』(1974年)



―以前、ジャミロクワイのジェイ・ケイが、ザ・リアル・シングからの影響を語っていたのを見たことがあります。

ブルーイ:リアル・シングは特に重要な存在だと思う。彼らやゴンザレスみたいにブリット・ファンク以前から存在していたバンドが、ジャミロクワイのようなバンドとつながっているんだ。両者の音楽を表すのに使われる言葉は同じでも、やはり時代が違う。持っているエモーションは同じだけど、新しい世代は育った時期が違うからね。でも、ジャズ・ファンクやレア・グルーヴ、ブリット・ファンク、アシッド・ジャズといった音楽の共通点の一つは、ジャズが関わっていること。即興が入るのもそうだし、ジャズは初のブラック・ダンス・ミュージックとされていた。つまり僕らにとってジャズはブルースではなく、ダンス・ミュージックなんだ。

そして、自分たちの音楽がジャズと関係している限り、そこにはスピリチュアルのトリップという自由が存在する。ジャミロクワイの音楽もそう。ジャズ・ファンクを聴けば、必ずスピリチュアルのトリップを経験することが出来るし、ブリット・ファンクもそれは同じなんだ。


ザ・リアル・シング『Step Into Our World』(1978年)



ブルーイ:ちなみに僕がジャミロクワイを聴いて面白いと思ったのは、彼らが地球に興味を持っていたという点。死ぬにはまだ若すぎるという精神を感じたし、生きるために地球をより良い場所にし、救いたいという思いが込められていた。熱帯雨林や海面の上昇の問題に触れたりしているのは、正に次世代という感じだったね。一方で、彼らの音楽はマイゼル・ブラザーズを思い起こさせる。歌詞は違っていても、あのフィーリングは未だに存在しているんだよ。僕たちの時代は、クラブライフやガールフレンドを見つけることなんかがテーマになっていたけれど、時を経てジャミロクワイの時代になると、あの頃のエナジーはそのままに、トピックが変わっていくんだよね。

90年代に初めてツアーで彼らを見た時は、鋼球のような衝撃を感じた。サウンドは同じなのに、地球のことを歌っているんだから。僕たちの時代は「ベイビー、一生君を愛するよ」なんて内容だったのに(笑)。今の若者たちは、地球の緊急事態なんて、昔では考えることのなかった全然違う認識を持っているんだなと思った。そして彼らにとってのスピリチュアルのトリップは、大麻を燃やすことで作られていた(笑)。彼らのツアーバスは、まるで誰かが熱帯雨林規模の大麻を燃やしてるみたいなニオイがしてたね。ツアーバスに入ってそれを見て、「お前たち一体何やってんだよ!」と言ったのを覚えてる(笑)。



ブルーイ:ジャズ・ミュージックでは、たいまつの火が絶えないんだ。ミュージシャン達は、そのたいまつをバトンタッチしながら聖火リレーをしている。次から次に新しいランナーが出てくる。その中で、音楽は少しずつ形を変えていく。さらに進化して、R&Bバージョンのそれが出て来たりね。ディアンジェロやザ・ルーツはヒップホップから来ているけど、ジャズのルーツを持っているし、アフリカについて触れたりしている。そんな彼らの音楽も、ジャズの延長線上にある。僕はディアンジェロを一番最初にリミックスしたアーティストの一人で、「Brown Sugar」の上にホーンを乗せた。そしたら、次のアルバムの『VooDoo』ではホーンが使われていた。それを聴いた時、彼らも一緒にスピチュアルのトリップをしているって感じたんだ。

そして、ジャズ、ファンク、ソウルの際どい境界線にいるバンドが、今度はなんとオーストラリアから出て来た。それはハイエイタス・カイヨーテ。音楽はジャズなんだけれども、彼らは新しい世代の新しい言語でそれを表現している。パーソナリティや個性、メンタルヘルスといった、これまでよりも一層ディープな問題を取り上げているんだ。これからもそういった新しいバンドがどんどん出てくる。そしてSTR4TAは、みんなにそんなことを思い出させるリマインダーみたいな存在だと思うんだ。



ハイエイタス・カイヨーテは6月25日にニューアルバム『Mood Valiant』をリリース予定






STR4TA
『Aspects』
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