Netflix映画『この茫漠たる荒野で』名優トム・ハンクスが演じる大人のウエスタン映画

ポール・グリーングラス監督・脚本による『この茫漠たる荒野で』のジェファソン・カイル・キッド大尉(演:トム・ハンクス)とジョハンナ・レオンベルガー(演:ヘレナ・ゼンゲル)。 (Photo by Bruce W. Talamon/Universal Pictures)

南北戦争終結後のアメリカ南部が舞台のポール・グリーングラス監督作『この茫漠たる荒野で』(Netflix独占配信中)では、現代のヘンリー・フォンダとも称される名優トム・ハンクスが試練を乗り越える姿が描かれる。

土曜の午後にテレビで放送されている、堅苦しいくらい真面目な西部劇とトム・ハンクス扮する同じくらい真面目で気骨のある、使命を帯びた男。まさに完璧な組み合わせだ。だが、映画『この茫漠たる荒野で』のもっとも意外な点は、マット・デイモン主演の『ボーン』シリーズによって目もくらむような超視覚的スリラー作品とその手法の模範を10年以上示しつづけてきたポール・グリーングラス監督がメガホンを取っていることだ。だからといって『この茫漠たる荒野で』を観る人は、米電池メーカー・エナジャイザーのマスコットのウサギのように持久力自慢のヒーローが延々とバトルを繰り広げるなんて思ってはいけない。グリーングラス監督とハンクスがタッグを組んだ『キャプテン・フィリップス』(2013)がそうだったように、本作はここ一番のときにだけ観客の感情をかき立てるのだ——それもかなり巧みに。本作では、ストーリーテラーとしてのグリーングラス監督の手腕がいかんなく発揮されている一方、多くの場面では静かに見守るというスタンスが貫かれている。哀愁を帯びた人物描写に丘陵地帯の危険、心の葛藤、南北戦争後の社会の分断といった大人のウエスタン映画というジャンルに欠かせないあらゆるスパイスが風味を添えているのだ。

したがって本作は、主人公のキッド大尉のようにいかにも賢人ふうの外見の大人たちを満足させられる内容に仕上がっている。『この茫漠たる荒野で(原題:News of the World)』は、米作家・詩人のポーレット・ジルズが2016年に発表したベストセラー小説『News of the World』をもとにグリーングラス監督と作家・脚本家のルーク・デイヴィスが脚本を執筆した。舞台は南北戦争終結後のアメリカ・テキサス州。ハンクス扮する退役軍人のジェファソン・カイル・キッド大尉は、テキサスの町を転々としながらそこで暮らす人々に新聞を読み、世界各地のニュースを伝える仕事をしていた。風変わりな仕事のように思えるかもしれないが、ひとりの人間にニュースの読み聞かせを任せることは、隣町で起きている恐ろしい感染症に関する最新情報をかしこまって報告するまでのちょっとした気晴らしにうってつけなのだ。どうやらキッド大尉は、何かを忘れようとこの仕事に勤しんでいるようだ。そして当然ながら、大尉は自身が抱えている問題から目をそらし続けている。散弾銃を持つ彼のような退役軍人がそう簡単にのんびりとした老後を迎えられるなんて思ってはいけない。

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Translated by Shoko Natori

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