Netflix映画『この茫漠たる荒野で』名優トム・ハンクスが演じる大人のウエスタン映画

ポール・グリーングラス監督・脚本による『この茫漠たる荒野で』のジェファソン・カイル・キッド大尉(演:トム・ハンクス)とジョハンナ・レオンベルガー(演:ヘレナ・ゼンゲル)。 (Photo by Bruce W. Talamon/Universal Pictures)


そんなキッド大尉の孤独な人生は、リンチされた挙句、殺害された黒人の御者(歴史的背景を語るうえで欠かせない)と彼の馬車に乗っていた白人の少女との出会いによって一変する。ヘレナ・ゼンゲル扮する少女が孤児になるのはこれで2度目だ。少女は幼い頃、ネイティブアメリカンのカイオワ族によってさらわれ、自分はターニング・ウォーターとスリー・スポテッドというカイオワ族の両親のもとに生まれたシカーダという名前の娘だと信じ込んでいるのだが、両親の姿はどこにも見当たらない。彼女の正体は、ジョハンナ・レオンベルガーというドイツ系の少女だった。あれこれと思案した結果、長年孤独だった退役軍人のヒーローにふさわしく、キッド大尉は少女を家族の元に送り届けることを決意する。だがその先には、町を行き交う北軍の兵士たちや敗れたアメリカ連合国(訳注:1861年に結成されたアメリカ南部諸州の連合国家)の不満といった南北戦争後の危険が待ち受けていた。

観客の予感は現実のものとなる。感動的な文化交流(少女は大尉にカイオワ族の言葉をいくつか教え、大尉は英語を教える)、突然襲いかかってくる暴力、見知らぬ人たちとの旅の不安を経て、少女と大尉との間に絆が生まれるのだ。キャスティングも納得のいくもので、マイケル・コヴィーノ、ビル・キャンプ、エリザベス・マーヴェルをはじめとする素晴らしい俳優陣が主人公ふたりの冒険を際立たせている。

私たち同様、グリーングラス監督はトム・ハンクスのなかにある資質、言うならば、現代のヘンリー・フォンダ的な資質を見出しているようだ。それはハンクスの外見や佇まいからではなく、このような役を演じる際に自然と流れ出る落ち着きのようなものに由来する。ハンクス扮する退役軍人は善良で有能な男の典型であり、たとえ彼を取り巻く人々が南北戦争後の白人の権利剥奪による苦難を象徴するような存在だったとしても、大尉はかつての奴隷や地元のネイティブアメリカンの人々に対する人種差別的な暴力を疎ましく感じている。ハンクスの冷静な物腰は、直球で勝負し、皮肉にもこのドラマ全体の原因となっているさまざまな問題に固執しすぎないという点で本作にふさわしい。物語はいつの間にか問題の核心へと向かい、主人公たちの心に生じるドラマが荒野を吹く風のようにこうした問題を解消していく。作曲家ジェームズ・ニュートン・ハワードのスコアは秀逸で、撮影監督ダリウス・ウォルスキーの吹き荒れる砂の描写は物語の進行とともにさらなる広がりを見せ、存在感を放つ。

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『この茫漠たる荒野で』は、ハンクスのありとあらゆる姿を堪能させてくれる。彼は父親であると同時に保護者であり、必要な場合に限り、銃で人を撃ち殺すこともできる。ハンクスからは、現在よりもはるかに暴力的な過去を生きた男の存在が感じ取れる。西部劇というジャンルにありがちのキャラクターだが、ハンクスのような名優は、いつかは演じなければならない役なのかもしれない。そして彼は見事にこの役を演じ切った。アクションシーン以外の場面では若干間延びしているようにも感じられるが、スクリーンには映しきれない、もっとダークな何かが潜んでいることも伝わってくる。あえて言う必要はないかもしれないが、こうしたすべては誰かにとっては無意味な情報かもしれない。だが、これを聞いて興味をそそられる人もいるはずだ。


この茫漠たる荒野で





Translated by Shoko Natori

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