伊藤美来、全国ツアー最終公演で見せた多彩なポップの形

新境地を伝えるにふさわしい1曲「vivace」

『Rhythmic Flavor』に収録された自身の作詞曲「いつかきっと」は、まさにこの日のために用意されたような内容。久しぶりにファンと対面することができた伊藤、そんな彼女と再会することができた観客が互いの絆を確かめ合い、伊藤は歌詞の一言一句を、感情を込めて丁寧に届けた。そのまま「あお信号」「ガーベラ」と緩急に富んだ選曲で彼女のさまざまな顔を見せていく。その真骨頂と言えるのが、『Rhythmic Flavor』のラストを飾るChara書き下ろし曲の「vivace」だろう。この曲では伊藤がステージに設置されたベッドに腰掛け、今回のツアーのために制作された取り下ろし映像をバックにしっとりと歌う演出を用意。深夜の囁きにも似たその繊細な歌声は、彼女の新境地を伝えるにふさわしい1曲だと断言できる。

彼女がそのままベッドに横たわると、会場が再び暗転。すると、スクリーンには朝目覚めた伊藤がベッドから起きる姿が映し出され、朝食など朝の支度をして家を出るまでの要素がショートムービーとして紹介される。この流れから『Rhythmic Flavor』のオープニング曲「BEAM YOU」へとつなげる構成は、アルバムのループするような世界観がそのまま投影された好演出だと言える。パンツスタイルに衣装替えした伊藤は、再びダンサーたちと一緒にピースフルな世界観を表現し、観る者を魅了し続けた。


Photo by 江藤はんな

ライブ後半戦に突入すると、「Plunderer」や「孤高の光 Lonely dark」といったアップテンポのシングル曲を連発。それまでの緩やかでポップな空気から一変し、高揚感が増していく流れに。ここでは、ライブで「盛り上がれる曲」をイメージして制作したという「Born Fighter」がキラーチューンと化していたことを特筆しておく。ロック色の強いこの楽曲では、ステージ後方に火柱が上がる派手な演出も用いられ、攻めの姿勢がもっとも強く表現されていた。きっと観客が声を出せる状況になったら、もっとも大きな声援が鳴り響く“アゲ曲”へと進化するはずだ。さらに、「恋はMovie」「Sweet Bitter Sweet Days」とポップでキュートなアップチューンも立て続けに披露され、クライマックスに向けて会場内の熱気も一段と高まっていった。


Photo by 江藤はんな

本編ラストナンバーを披露する前、伊藤は改めて今回のツアーに向けて「気合も入っていたし、いろいろ不安もあった」と本音を明かす一幕も。今回のライブ会場となったパシフィコ横浜は彼女が15、6歳の頃、初めて立った大きなステージであり、その場所に自身のソロライブで再び戻ってくることができたことに対し「自分で自分の成長を感じ、感慨深い」と話す。こうしたライブが実現できたのは、目の前にいるファンがいたからこそ……そう伝えようとすると、彼女の瞳からは自然と涙が溢れ出す。「まだまだ自信はないけど、ちょっとずつみんなのおかげで自信も付いてきて。これが私です、これが伊藤美来ですと胸を張って言えるような人間になってきたと思います」と、声を震わせながらファンへの感謝を伝えると、そのままラストナンバー「Good Song」へと突入。最初こそ涙で言葉が詰まってしまうも次第に持ち直し、自身が作詞した楽曲だからこそのたっぷり詰まった思いを、笑顔とともに届ける。そんな彼女の歌に、オーディエンスは温かな手拍子で思いを伝え、会場の一体感がピークに達したところでライブはクライマックスを迎えた。

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