大木亜希子と手島将彦が語る、エンタメ業界で生きるための精神とお金の話

手島:今はダメでも、いずれなんとかなるみたいなこともあると思うんです。20代でダメでも、30代でなんとかなるかもよとか。日本でダメでも、違う場所だったらうまくいくかもよとか。成長というのは、必ずしも右肩上がりばかりじゃないから、どういう曲線を描くかはみんな違っているんです。

大木:それって極端な言い方をすると、急がば回れだと思うんですね。先生がおっしゃった、どういう曲線を歩むかは人それぞれ違うというのは、ものすごく心にグッと来まして。女優もアイドルも、顔を出して人に見せなきゃいけない商売というか。自分を大切にすることをテーマとして持っていても、人から評価されて収入を得ている人たちは、それ相応の業の深さを背負っている気がして。だから売れると、ものすごい額を稼いだりする可能性もある。そういうリスクと表裏一体な気はしていますね。『アイドル、辞めました。』で取材した、ラジオ局社員として就職されたNMB48にいらした河野早紀さんは、アイドル時代、なかなか自分が思うように活動ができず、ミュージック・ステーションに出ている同期の子を見ながら悔しい思いもしたそうなんです。その時は曲線でいうと下がっているように見えるけど、実は悔しい思いをしていたその時期に、ラジオ局に就職するための企画力を養うとか、上に行くための種がそこで育っている時間でもある。卒業してから自分の好きなことを見つけていくことこそ、私はアートであり、人生なんじゃないかなと思いますね。

手島:例えば、北欧のアイスランドは全人口が30万人ぐらいしかいないんです。そもそもエンタメで食えないんですよ。全国民がCDを買っても30万枚セールスにしかならない。それじゃあ、ミュージシャンたちはどうしているかと言うと、パラレルワークみたいなことをしている。音楽だけで稼ごうと思っていないから、逆に個性的なことができて、小さい島なのに世界的なアーティストがいっぱい出てくるんですよね。置かれている環境が本当に自分に合ってるのか考えてみるのもありなのかなと思います。僕がカウンセラーをやっていて気をつけているのは、誰かを世の中に無理やり適応させるようなことはしないということ。例えば、すごくメンタルで悩んでいる方がいて、それが仕事のことだったとします。無理やり修正することで、そのコミュニティに合わせさせるということはしちゃいけない。どっちかと言うと本来なら周りを変える方向にいった方がいいというか。カウンセリングに認知行動療法というのがあるんですが、これはかなり簡単に言うと「ものは考えようだよ」、「その考え方は妥当か考えてみましょう」って話なんですけど、これは一歩間違うと、その人を無理やりおかしな環境に適応させるみたいなことになっちゃう。それをやっちゃうと、その人の本来の良さがなくなるかもしれないし、どこかで歪が出てくると思うんですよ。あくまでも世の中や出来事の捉え方を考えて、そこがダメだったら離脱しましょうよとか、なんか付き合い方を考えましょうよとか、過剰に適応するのでも自己否定でもないようでなければいけないと思っています。

Rolling Stone Japan 編集部

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