Gotchが語るシーンの越境から手に入れたもの、音楽を未来につなぐためのトライアル

気持ちのいい文化の流れを作りたい

―あと後藤さん的に、ドラマーとしてのmabanuaさんはどう見ていますか?

Gotch:mabanuaとの仕事は安心できますよね。彼はいろんな音楽をやっているし、いろんな音楽を聴いてるので引き出しが多い。それに最初に会ったときよりもドラムが上手くなっているんですよね。使ってるドラムセットもユニークになってる。ちょっと会ってない期間があるとその間にも上手くなるし。だから、一緒に音楽を作ってて気持ちがいいですよね。気付かされることもたくさんある。mabanuaは今や日本の音楽界におけるトップ・プロデューサーですから。

―最近はプロデューサーの役割を多く担っているmabanuaさんを、ドラマーとして贅沢に使っている作品でもあると思うんですよ。彼のドラマーとしての良さはどんなところにありますか?

Gotch:周りの演奏にビシッと合わせられるのは大きいですよね。大局が見えているというか。楽曲のことを理解して、大きく捕まえることができて、そのうえ技術もある。プロデューサー的な視点で叩いている部分もあるから、自分の演奏のディレクションも自分でできる。バシッと2テイクくらいしか叩かないんですけど、どこをダビングするかのジャッジもしっかりしていて、「あそこのあそこがこうヨレていたので直します」とか、「もうちょっとインテンポの方がいいと思う」とか、そういうディティールも見えている。作業が一つ減るくらいに助かるんですよ。

―ジャズピアニストの坪口昌恭さんが同じようなことを言ってました。「mabanuaさんは全体が見えてるから、彼が叩くとみんなが演奏しやすい」って。

Gotch:自分で歌うこともあるし、楽器は全部できるから、俯瞰した演奏ができるんですよね。

―しかし、後藤さんは本当にいいミュージシャンを起用してますよね。ライブではドラマーの伊吹文裕さんを起用したこともあったり。

Gotch:伊吹くんを見つけてきたのもシモリョーですね。彼もすごいんですよ。絶対音感があるのに、音程のある楽器が嫌でドラムを叩いていると言ってました。ある種の呪縛から離れるための反抗としてドラムを選んで、あそこまで行くんだから天才ですよね。ミュージシャンへのアンテナは、(自分よりも)シモリョーの方が立っているかもしれないです。

―実は後藤さんのバンドは、あいみょんさんや藤原さくらさん、Charaさんと人脈的に近いんですよね。

Gotch:確かに。さくらちゃんもYasei Collectiveが入ったり、origami PRODUCTIONS(mabanuaが所属するレーベル)のミュージシャンやSpecial Othersが入ったり、そう言われてみると割と近いですね。


アルバム収録曲とゲストの楽曲からセレクトされた、後藤制作のプレイリスト「Around The Lives By The Sea」

―こうやっていろんな人を起用してきたのは、新しい才能を紹介しようという意図もあったと思うんですよ。アジカンのツアーで若いミュージシャンと対バンしたり、後進ミュージシャンを育成するために『APPLE VINEGAR - Music Award』を立ち上げたり。今回のアルバムは、そういった後藤さんの思想とも地続きに繋がっている。

Gotch:気持ちのいいシーンの流れを作りたいとは思っておます。ともすれば自分たちのファンを獲得して終わりみたいな流れがあるじゃないですか。それって棒倒しみたいに誰が一番砂を取ったのかみたいな感じで、ヘルシーじゃないよなって。そういう問題意識を長く持ち続けているんです。それに前の世代からもらったパスを、次に渡していかなきゃいけないよねって気持ちもある。それは機会の面もそうだし、お金の面もそうだし、文化的な知恵や技術の問題もある。だから、俺たちももっと話を聞きに行かなきゃいけないと思って、ここ何年かで坂本龍一さんにいろんな話を聞いたり、質問したり、そういう機会が自分の中でプラスになっているんです。

―なるほど。

Gotch:こういうのは川の流れやツリーのようになっていかないと貧しくなっていくと思うんですよ。海外のミュージシャンには文化的な流れを感じますよね。地域ごとに流れがあって、それが連なるように歴史になっていくし、スタジオ文化みたいな形で地域にも張り付いていって、それをみんなが再利用している。シカゴも街の歴史とともに音楽のコミュニティがあるし、文化の成り立ちには社会のあり方も関わっている。だから、僕らはずっと音楽だけじゃなくて、社会にもアプローチしないといけない。僕としては矛盾なく、それを誠実にやるだけだよって感じですね。ファンダムとかファンベースをたくさん築いた人が勝ちとかじゃなくてね。

NYに行くと、この街には音楽が好きな人がたくさんいるんだなって感じるんですよ。あんな雰囲気になってほしいと思うから、そこに向かってアプローチしているのはありますね。音楽を好きな人が増えないと、俺たちがやる場所がなくなってしまう。そういう思いで活動しているし、最後に実現した社会とかシーンを若い人たちにパスして去っていけたら最高。そんなイメージですね。




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