aikoが語る、日常を歌にするまでの過程「絡まった洗濯物は好きという気持ちと同じ」

「シャワーとコンセント」に込めた情景

—今回のアルバムには3人のアレンジャー(トオミヨウ、OSTER project、島田昌典)が参加。それぞれの個性が活かされているのも、本作の魅力だなと。まずトオミヨウさんは、シングル「青空」で初めてaikoさんの楽曲に参加。

はい。一昨年、大阪のFM802のキャンペーンソング(「メロンソーダ」)を作らせてもらったときに、アレンジしてくれたのがトオミさんで。それがとても素敵だったので、改めて「青空」のときにお願いしました。アレンジが素敵なのはもちろん、レコ—ディングのときもすごく頼もしかったです。「こういう演奏をしてほしいんだけど、どう伝えたらいいだろう?」ということがあると、トオミさんがちゃんとわかりやすい言葉に変換して伝えてくれて。

ーそして島田さんは、デビュー当初からaikoさんの楽曲のアレンジを手がけてきたクリエイターです。

久しぶりに“島田さん”にお願いしたんですけど、やっぱり天才やなって思いました。とある方に、「島田さんはいろいろな方のアレンジをされてますけど、aikoさんのときはすごい化学反応が起きて、とんでもないアレンジを作るイメージがあります」と言ってもらって。ホントにその通りで、思っていた以上のすごいアレンジを上げてくださいました。歌うときも気合いと責任、感謝、嬉しさ……といろんな感情が混ざってましたね。

ーOSTER projectさんは、2014年以降のaikoさんの音楽を支えてきたプロデューサーですね。

そうですね。OSTER projectさんにはずっとボカロの世界があって、私の曲をアレンジしてもらうと、それがとてもいい距離感で出てきて。人間が再現するのは難しいくらいテクニカルなアレンジもあるんですけど、ミュージシャンのみなさんも挑んでくれる感じがあるんです。「これは人じゃ弾けないですよ」と言いながらも、それをクリアするためにがんばって。そのピリッとした空気もいいんですよね。

ーアルバムの新曲について、いくつか聞かせてください。まずは「シャワーとコンセント」。仕事に行く前に彼女がシャワーを浴びていて、その音を聞きながら、“僕”は「そのまま帰って来なくなる事も何となく分かってるよ」とぼんやり考えているっていう。

そうですね。「これで別れるんだな」って。

—ドラマや映画みたいな状況じゃなくて、シャワーの音を聞いてそう思うのがリアルだなと。

そうかもしれないですね。私、マジメに話していてるときに、フッと全然違うことを考えちゃうことがあって。たとえば別れ話してて、めちゃくちゃ泣いてるとして。すごく悲しいはずなのに、一瞬、ちょっと上あたりから「え、めっちゃ泣いてるやん」って見てる感じになったりするんです。あと、「洗濯物、取り込まないとな」とか(笑)。

—わかる気がします(笑)。

ですよね? 「シャワーとコンセント」も、そういう感じが出てるかもしれないですね。ちょっとした瞬間に「この子、このまま帰ってこないんちゃう?」「せやろな」って自分のなかで会話してるというか。あと、好きな人がシャワー浴びてるときって、いろんなことを考えてたな……って思い出しながら。


Courtesy of PONY CANYON

ー「愛で僕は」は、ブラックミュージック的なアプローチの楽曲。アウトロのフェイク、めちゃくちゃ気持ちいいですね。「よくある幸せなんてどこにもない」という歌詞にもグッときました。去年、日常のすべてが特別だったんだと思い知らされたので……。

そうですよね。「愛で僕は」もコロナ禍のときに書いた曲なんですけど、普通にできることが出来なくなって、いろいろ考えているうちに浮かんできたので。「天気が良かったら手を繋いで出かけよう」もそうですね。

ーそういう普通のことこそが素晴らしい、というか。

ホントに。「マクドが閉まってると、こんな気持ちになるんだ」って思いましたから(笑)。レコーディング中、作業が終わった後、どうしてもマクドに行きたくて探したんですが、けっこうどこも閉まってて、「え、うそやろ?」って思いました。一軒だけ開いてるところがあったんですけど、そんなこと初めてですからね。

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