細野晴臣の50年間に及ぶルーツ ノンフィクション本とともに読み解く



田家:続いて、門間さんが選ばれたのは2011年に発売になったアルバム『HoSoNoVa』から「悲しみのラッキースター」です。このアルバムは、細野さんが全曲歌っていらっしゃって、これは1973年の『HOSONO HOUSE』以来で38年ぶりでした。

門間:これは最近の細野さんの音楽的傾向が表れている曲です。この曲はオリジナル曲ではありますけど、過去の良き音楽をカバーしたり、自分自身で歌って演奏するということに一番喜びを感じていて、それがYMO以降の精神的な葛藤を乗り越えてようやくたどり着いた細野さんの音楽を一番楽しめる場所なんだと思います。

田家:エルヴィス・プレスリーを歌っていたので、嬉しかったですよ。

門間:歌いたい曲はいっぱいあるみたいですね。

田家:YMO以降の細野さんの精神的な葛藤や精神世界の旅も、『細野晴臣と彼らの時代』の大きな柱だと思います。249ページにこういう記述があります。「細野の変身願望は、エゴイズムを超越したいという彼の切実なテーマから来ていたし、それは音楽に限らず、彼の人生に及ぶ壮大なテーマだった」と。よくお書きになりましたね。

門間:ここは今回かなり苦戦した部分ですね。音楽的な部分だけでなく、細野さんがどういう書物や思想に影響されたのかということを辿る上で、細野さんが実際に読んだ本を僕も読んだりして追いついていこうと思って、大変でした。一番重要なのは、カルロス・カスタネダが書いたドン・ファンシリーズで、一番細野さんに影響している作品なんです。これをシリーズで読んでみると、符合するものがあるんですよね。細野さんの今の考えや発言を見ると、ここがこういう風に参照されているんだなという部分があったりするので。そこを一回通ったことが今回大きかったなと思います。

田家:精神的なトリップやメディテーションなどのスピチリャリズム。

門間:ええ。ヒッピーカルチャーと繋がった本ですよね。ヒッピーカルチャーが、細野さんの音楽や考え方に影響していたんだなということを実は改めて知ったということだったかもしれないです。

田家:表紙にある、HOSONO HOUSE時代の長髪の細野さんの写真ですが、この頃はやはりそういう空気がありましたからね。僕もこれを見て「あ、俺だ」と思いましたもん(笑)。

門間:そういう意味ではあの時代の空気を吸い込んだ上で、あの時代にしかなし得なかったことをしていたんだなと思います。

田家:そこから音楽に戻ってきたのが、この『HoSoNoVa』になるわけですよね。2000年代になってから、小坂忠さんなど色々な人との再会がありますね。それがかなり劇的です。

門間:こんなドラマティックな展開があるのかという感じですね。フィクションで書いたらむしろうさんくさく感じてしまうくらい。アンビエントにある意味で引きこもるような細野さんを、皆が表に引っ張り出そうとするわけですよね。そこで細野さんが色々なことに気付いて、また表舞台に出てライブをするようになるところがとても感動的だと思いました。

Rolling Stone Japan 編集部

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