ソウルの幕の内弁当アルバムとは? アーロン・フレイザーのアルバムを鳥居真道が徹底解説

この曲はEm9とAm9というふたつのコードを終始行ったり来たりしています。このループの頭にはベースはルートであるEを弾くのが一般的ですが、フィル明けの最初の音は、なぜか全音上のF#が鳴らされています。F#はEm9においてナインスの音に該当するので、別に鳴らしてはいけない音というわけではありません(そもそも鳴らしてはいけない音など存在するのかという話は置いといて……)。いずれにせよ、ド頭にルート以外の音が来るので、「おや?」と思うのは事実です。こうした「おや?」と感じさせえるプレイが案外欠かすことのできないフックになったりするものです。狙ったものなのか、はたまた単なるミスなのかどうかは定かではありません。

曲の終盤、ステレオ右側にパンを振ったギターが抜ける箇所で、ステレオのセンターからギターの音が微かに聴こえます。これは、ミックスの段階でミュートしたものの、ドラムのマイクか何かにかぶった音が残ってしまったのだと思われます。このことから察するにベーシックの録音は一発録りで行われたと推測できます。

ベースの録音がライン録りだとしたら、多少ミスしても後から修正することは難しくありません。一発録りの場合、ミスで演奏を中断したりしていると、スタジオ全体のバイブスが死にがちです。これはなるべく避けたい。そこでモブションは、後から直せば良いと判断して演奏を続け、プレイバックを聴きながら、「ド頭で間違えちゃったよ」と申告したところ、「いや、これはこれで良いんじゃない? うん。良いと思う!」との声もあり、そのまま採用されるに至った。そんなスタジオでのやり取りの妄想を膨らませたのでした。

Rolling Stone Japan 編集部

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