戦争の闇を背負った子供たち アメリカで連続殺人鬼が多い理由

シリアルキラーはいつの世にも存在していた

さらにヴロンスキー氏によれば、おうおうにして白人シリアルキラーと白人の被害者というイメージが蔓延しているが、1970年から2000年のシリアルキラーのうち、白人はたった51%だという。「アフリカ系アメリカ人のシリアルキラーの話題をあまり聞かない主な理由は、とくに70年代から90年代の場合、被害者のほうに重きが置かれていたからです」と彼は言う。「毎回そうとは限りませんが、一般的に犯人は同じ人種グループ内で殺人を犯す傾向にあります」。それゆえ黒人のシリアルキラーは白人以外の被害者を狙うことが多いが、当時の人種差別の風潮ゆえ、白人被害者ほど報道されなかった。アトランタ児童殺人事件を見てみよう。70年代末、黒人を中心に子供と大人およそ30人が殺された事件だ。逮捕されたウェイン・ウィリアムズは大人2人の殺害で1982年に有罪判決を受けたが、他の殺人に関しては一貫して無実を主張している。裁判は何十年も長引いていたが、2019年にアトランタのケーシャ・ランス・ボトムズ市長が再審を命じ、最新テクノロジーでDNA検査を行われることになった。

「私は新著『Sons of Cain: A History of Serial Killers from the Stone Age to the Present(原題)』の中で、シリアルキラーはいつの世にも存在していたという説を展開しています」とヴロンスキー氏は続けた。「ですが、昔は今の“警察”のような正式な取締まり機関がありませんでしたし、切り裂きジャックが登場した1888年当時のように、連続殺人のニュースや話題を報道する紙媒体もありませんでしたから、記録が残っていないんです」。 さらに彼は、15世紀から18世紀の西ヨーロッパで行われた大規模な魔女狩りの時代には、シリアルキラーは狼男として裁かれていた事実を詳しく説明した。彼らは満月のせいで我を忘れた毛むくじゃらの獣ではなく、獲物を付け回してなぶり殺しにする快楽を覚えた人間だった。

「ひとたび魔女狩りが終わると、聖職者による法治がもはや存在しなくなったため、その後150年ほどシリアルキラーも狼男も出てこない時代が続きます」とヴロンスキー氏は続けた。「シリアルキラーはおそらく地元コミュニティでリンチに遭っていたのでしょう。“犯罪警察”や犯罪訴追機関が存在しない時代でしたから」。シリアルキラーが再び登場するのは1880年代、公式な取締まり組織や司法制度ができてからだ。そこで登場するのが切り裂きジャックのような殺人鬼だ。警察は彼の行方を追い、マスコミは彼の所業をつぶさに追った。

70年代から90年代の時期についても同じことが言える。メディアはナイト・ストーカーのような殺人鬼が次に何をするのか、固唾を呑んで見守っていた。だがギル・カリロ氏のような刑事にとっては、普段の仕事となんら変わらない。「犯行現場へ行って仕事をして、どの事件も内容に応じて仕事をし、証拠をつなぎ合わせていく。単純で平凡な日常の殺人事件とやることは変わりません」とカリロ氏は言う。「リチャードのことは気にも留めなかったし、彼がその後どうなるかも気にしませんでした。奴はフランクと私に、(死刑執行には)立ち会うつもりかと尋ねました。フランクは迷わず、もちろんだと即答しました。お前は、と聞かれたので、私はこう答えました『知ったことか。死はいやというほど見てきているからな』」

from Rolling Stone US

Translated by Akiko Kato

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