戦争の闇を背負った子供たち アメリカで連続殺人鬼が多い理由

シリアルキラーの黄金期が終わりを迎えた背景

「幼少期に虐待を受けた人がこういう風になるわけではないことは周知のとおりですが、彼らにはもともと影響されやすくなる遺伝子がなかったのかもしれません」とファロン氏。「つまり、幼少期の環境だけの問題ではないのです。もちろん遺伝子だけの問題でもありません。この二つの相互作用によって、こういった過激で、攻撃的で、反社会的な行為に傾倒するのです。これまで私が研究してきた人はみな、どの殺人鬼もどの独裁者も、一人残らず生まれてから3歳になるまでの間に捨てられた、あるいは虐待された経験を持っています――ポルポトを除いて。彼は良い育てられ方をしたと言っていますから」。念のために言っておくと、ファロン氏はこれまで一度もシリアルキラーの脳の物理的な検査――レントゲン写真でも、その他の方法でも――に成功していない。同氏の依頼を被験者たちが拒否したためだ。

ナイト・ストーカーことリチャード・ラミレスの場合、これらすべての要因が当てはまる。ヴロンスキー氏が指摘しているように、ラミレスは暴力的な家庭で生まれ育ち、ベトナム戦争帰りでPTSDを患っていた従兄がいる。彼はこの従兄から、ベトナム人女性を性的に暴行して頭部を切断した話を聞かされた。またこの従兄は、ラミレスの目の前で自分の妻を殺害した。「ラミレス本人も、あれを目の当たりにした後で『別の世界』へ移行した、と語っています」とヴロンスキー氏。同氏の指摘によれば、ラミレスは2歳の時にタンスによじ登ろうとして前頭葉損傷を負っている。「前頭葉損傷は、NFL選手の場合と同じで、我々が『傷害誘発性精神病質』と呼ぶ深刻な行動障害と関わっています」と同氏は言う。「子供時代の前頭葉損傷は、シリアルキラーの伝記にもしばしば記されています」。ファロン氏の言葉を借りれば「逃れる道はありません」

シリアルキラーの黄金期は、なぜ突如終わりを迎えたのか?

第一に、いくつかの社会的変化が挙げられる。ホールズ氏も指摘しているように、70年代には殺人鬼の多くが他人の車に乗り込むことに何のためらいもないヒッチハイカーを食い物にしていた。「その後どうなったのかというと、こうした犯罪の結果、女性たちがヒッチハイクをやめたんです」と同氏。「つまり、いままで豊富だった被害者グループがいなくなってしまったんです」。ゴールデン・ステート・キラーやナイト・ストーカーのような殺人鬼――家に押し入るタイプ――は、ホームセキュリティ・システムの台頭で二の足を踏まされた。そうした理由から90年代――ベトナム帰還兵の子供たちが成人するころ――には、シリアルキラーは主にセックスワーカーを標的にした。

「うちの管轄では、1990年ごろからセックスワーカーを標的にした連続殺人事件が出てきました」とホールズ氏は言う。「加害者は街で働くセックスワーカーに照準を移したんです――自らの意志で車に乗り込み、いなくなっても基本的には捜索されない、格好の被害者候補です」。しばしばこうした事件は、バンディやその他殺人犯の手にかかった事件ほど知られてはいない。

Translated by Akiko Kato

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