戦争の闇を背負った子供たち アメリカで連続殺人鬼が多い理由

ゴールデン・ステート・キラーの場合

現役を退いた元刑事のポール・ホールズ氏は、何十年もゴールデン・ステート・キラーの事件を追い、犯人の行方を追った。1974年から1986年にかけて、カリフォルニア州で少なくとも12件の殺人と50件のレイプ、100件の強盗を働いたとみられる連続殺人犯だ。2018年に元警官のジョセフ・ディアンジェロがこれらの事件で逮捕され、2020年には13件の第1級殺人罪と13件の誘拐絡みの罪で、連続11回の終身刑を言い渡された。殺人犯のプロファイル歴が長いホールズ氏によれば、世間はとかく元軍人をシリアルキラーの第一容疑者に結び付けがちだが、それは間違いだという。

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「それでは短絡的すぎます」と同氏はローリングストーン誌に語った。「ゴールデン・ステート・キラー事件に取り掛かっていた時、あの当時の大勢の人々の経歴をチェックしました。戦争が原因で、彼らの大半は軍と何らかの関係があり、徴兵経験がありました。ですからついこう言いたくなる。『ほら見ろ! シリアルキラーを捕まえた、シリアルキラーになった原因はそれに違いない』と」

ディアンジェロは海軍にいたが、戦闘を目の当たりにしたことは一度もない。だが彼の父親は空軍出身で、家族の話によると一家がドイツに駐在中、ディアンジェロは妹が兵士2人にレイプされたのを目撃している。「当然ごく普通の少年にしてみれば、トラウマになるような経験です」とホールズ氏。「では、その少年はそれが原因で性的加害者になるか? そこは疑問です。ですが別の加害者を考えてみましょう、フィル・ヒューズです。彼は同じぐらいの年頃に、少女や女性に対してすでに暴力的な性的妄想を抱いていました」 。ヒューズは70年代、カリフォルニア州で少なくとも3人の女性を殺している。「フィルのような人間なら――自分の姉妹がこの手の暴力を受けるのを目にしたら――心に傷を負ったりしないでしょう。逆にそそられるんです。ディアンジェロもそそられたのではないかと私は思っています」とホールズ氏は言う。

神経科学者のジェームズ・ファロン氏――自らをサイコパスと自己診断した『The Psychopath Inside: A Neuroscientist’s Personal Journey into the Dark Side of the Brain(原題)』の著者――も、シリアルキラーが戦争時代に生まれた子供だ、という点に関してはヴロンスキー氏とホールズ氏と同意見だ。だが彼の関心は、戦時中の子供の大多数がその後比較的穏やかな人生を送っているのに、特定の人々はシリアルキラーになった理由の解明に向けられている。ファロン氏は研究の中で、サイコパス、ソシオパス、その他重度の人格障害を患った人々は、攻撃的・暴力的・感情移入の欠如・不安や反応性の欠如といった傾向があることを突き止めた。こうした障害は、良い育てられ方をすれば比較的軽いままで済む――本人も言うように、ファロン氏も刑務所行きになったことは一度もない――だが、PTSDを抱えた父親や支配的な母親に育てられた、あるいは虐待が目の前で起きたような場合はこの限りではない。

Translated by Akiko Kato

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