世界中で爆発的ヒット、オリヴィア・ロドリゴが異例のブレイクを果たした5つの理由

曲のテーマを引き立たせる音楽的演出

では「drivers license」は、どんなふうに痛みを美しく感動的に描いているのか。もちろん歌詞だけでなく、そこには音楽的な演出や工夫が詰め込まれている。

悲痛さを湛え、緊張感を増して高音へと駆け上がっていくコーラス(サビ)のメロディ。そこからテンポがハーフになり、解放感をもたらすブリッジとアウトロは、まるでこらえきれなくなった涙が突然流れ出してしまったかのようだ。シンプルなコードワークによるソングライティングや楽曲構成が、巧みに痛みと悲しみを描き出している。

イントロでは、車のキーがかちゃかちゃと鳴る音とドアのロックを外すサウンド(オリヴィアが母親に頼んで録ってもらったものだとか)が効果的に配置されている。特に後者は、8分で刻まれるピアノのB♭の音とキックにそのまま繋がっていき、見事な導入の役割を果たしている。この非音楽的な要素は、先ほどの「運転免許」というアイテムとの相乗効果で楽曲の世界を提示する。

また、オリヴィアはテイラー・スウィフトとロードのファンとして知られており、「drivers license」を聴いて彼女たちの楽曲を想起したリスナーも少なくないだろう。この曲はとりわけロードの「Green Light」と似たテーマを持っており、「赤信号、止まれのサイン」という歌詞は、「Green Light」の「私は青信号に変わるのを待っている」というラインに呼応したものだと言える。



その「Green Light」にも近い、アコースティックピアノとエレクトロニクスが絡み合ったサウンドプロダクションも見事だ。静と動のコントラストが効いたアレンジ、深いリバーブのかかった厚いコーラス――これらは、共作者でありプロデューサーのダン・ニグロの貢献によるところが大きいはず。インディロックバンド、アズ・トール・アズ・ライオンのフロントマンだった彼は、コナン・グレイやエンプレス・オブ、ルイス・キャパルディ、カーリー・レイ・ジェプセンといったポップアクトの楽曲を手がけている才能だ。楽曲の悲痛なテーマを過剰に盛りつけず、あくまでもオリヴィアの声を中心に置き、現代的な意匠によって彼女の歌を聴かせているニグロの仕事はパーフェクトだと言える。


⑤オリヴィアの歌とインディフォークの系譜

ここまであまり触れてこなかったが、もちろん「drivers license」の魅力の大部分は、オリヴィアの歌の力が占めている。単純な歌の上手さを超えた聴き手に訴えかける表現力と、オリヴィアの声に固有のテクスチャーが、「drivers license」を特別な曲にしているのだ。

先に挙げた沢田の記事でファイストが引き合いに出されているように、オリヴィアの少しハスキーな歌声やボーカルスタイルは、キャット・パワーやニーコ・ケイス、あるいはカレン・ダルトンなどを思い起こさせる。つまり、高音で歌い上げる大味なポップシンガーではなく、低めの声で親密かつ繊細な表現を得意とするインディフォーク系のシンガーに近いのだ。そこが、オリヴィアを替えの利かない歌い手たらしめている。

TwitterやInstagram、TikTokといったソーシャルメディアでは無邪気な姿を見せているオリヴィアだが、歌や音楽には真正面から向き合っているのだろう。背景の物語を取り去ってみると、「drivers license」からは彼女の真摯さが伝わってくる。音楽ライターの竹田ダニエルが書くとおり、アーティストとしての誠意や音楽的なクオリティの高さ――つまり、ここまで述べてきた歌詞の魅力、サウンドプロダクションの巧みさ、歌とメロディの力強さ――こそが、「大人たちが会議室で考えた戦略」ではないオーガニックな受容と型破りのヒットを生んでいる。

現在進行形で様々な記録を打ち立てている「drivers license」の成功については、すでに様々な分析がなされている。しかし、本稿でそれについて言えることがあるとすれば、いい歌だからヒットしたという、ただそれだけだ。とても凡庸で、ここまで読んでくれた読者には呆れられてしまうような結論かもしれないが、それに尽きると本当に心の底から思う。




オリヴィア・ロドリゴ
「drivers license」
視聴・購入:https://umj.lnk.to/OliviaRodrigo_license!DR

オリヴィアが出演しているディズニープラス配信のドラマシリーズ
『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』サントラ
試聴:https://lnk.to/HighSchoolMusical 

日本公式HP:https://www.universal-music.co.jp/olivia-rodrigo/

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