スパークスとエドガー・ライト監督が語る、最新ドキュメンタリーと謎多きバンドの50年史

あらゆる時期のスパークスを同等に扱いたい

ーライト監督以前に、兄弟のドキュメンタリー制作の企画はあったのでしょうか?

ラッセル・メイル:デビューしてから何度も話を持ち込まれたことはあった。しかしいつもイエスと言うのを躊躇していたんだ。僕らの言いたいことは、言葉よりも音楽の方が伝わるからね。それにセンスの良いちゃんとした人に任せないと、満足行くものができないだろう。これまではドキュメンタリーを作りたい、という気にならなかった。

ところがエドガーから提案された時は、イエスと即答した。僕らは彼の作品のファンだったし、彼の映画から感じられるセンスは、スパークスの音楽に通じるものがあるしね。こんな映画を作る人なら、バンドのストーリーにも真摯に向き合ってくれるだろうと感じた。それまでの企画では、満足いく作品ができそうになかった。エドガーとなら上手くいかない訳がない、と思ったのさ。良いタイミングで良い人が現れてくれた。

エドガー:スパークスがどんなに素晴らしいバンドかということを言葉で一所懸命に説明するよりも、映画にした方が伝わりやすい。「スパークスのどのアルバムを初めに聴くべきか?」と問われたら、どう答えたらよいか迷う。どのバージョンのスパークスから聴いてみたいか、と逆に聞きたくなるからね(笑)。

ロン:どのアルバムからでも、最初に聴いてくれた作品がその人にとってのニューアルバムということだ。

ースパークスには、オールシーズンに対応する作品があるということですね。

ロン:エドガーはさらに、僕らの音楽的な変遷で区切られる各期間を全て同等に扱いたい、と言ってくれたんだ。それから現在の僕らの音楽は、40年前と変わらず重要な意味がある、とも言っていた。自己妄想のようなものかもしれない(笑)。でも僕らにとっては重要なことだった。正にラッセルと僕が常に意識してきたことだからね。

エドガーは理解してくれていた。東京とメキシコでの最近のコンサートで撮影した若いオーディエンスの反応が、1974年当時の会場とまるで同じ感じだった。彼はそれを映像に収めたかったのさ。僕らが歩んできた50年間の音楽キャリアがずっとつながっていると考えると、不思議な感じだ。全部が一つにつながるんだ。

エドガー:全てを網羅したドキュメンタリーに仕上げたかった。特に、失敗は成功と同じように興味を惹かれるからね。本人たちは傑作だと思わなかったアルバムでも、気に入っているファンがいることを知って、ロンとラッセルは驚いただろう。


東京を訪れたロンとラッセルのメイル兄弟を撮影するエドガー・ライト(Photo by Richie Starzec)

ーエドガーはあなた方を、ユーモアを使いながらも決して奇をてらったバンドではないと捉え、スパークスの音楽的な才能とセンスを引き出しているように感じられます。楽曲制作に関してもそうです。それにもかかわらず、多くの人々はユーモアの部分にのみ注目しています。

ロン:「おい、おかしなバンドがいるぜ!」って感じかな。以前にもそのように指摘されたことがある。テクニカルな部分を聴く側に見せつけるべきではない、と僕らは考えている。しかし歌詞にはあらゆる素敵な感情を込められる。そして特にバンドのビジュアル面にユーモアを交えたりすると、軽薄で取るに足らないバンドだとみなされる。僕らに選択肢がある訳ではない。僕らはただ僕らのやり方でやっているだけなのだ。

エドガー:君らはいかにおかしく見せるかということに、真面目に取り組んでいる。

ロン:でもドキュメンタリーの中で特に嬉しかったのは、僕らのユーモアに筋道を付けて描いてくれていることだ。正しい捉え方をされていた。

ラッセル:エドガーは、歌詞もバンドのストーリーの一部として描いている。「センス」だと思う。ロンの書く歌詞はスペシャルだと思っている。登場人物のさまざまな視点に立って書かれているのが素晴らしい。彼自身も、表現に力を入れている。アレックス・カプラノス(フランツ・フェルディナンドのフロントマン)によるとロンの歌詞は、胸を切り裂いて「俺の歌を聴け!」という感じだそうだ。そう言われると、ああ、ちゃんと理解してくれているんだな、と思う。ジーンと来るね。そしてマイク・マイヤーズは、「Girl From Germany」の歌詞を評価してくれている。エドガーが彼にインタビューしたのさ。僕は「何だって? マイク・マイヤーズが僕らのファンだって!?」と感動した。



エドガー:スパークスのファンを名乗るあらゆる人々を巻き込みたかった。この人はスパークスのファンだろうな、と思われる人に次々と声を掛けていったら、9割は正解だった。「マイク・マイヤーズさん、あなたはスパークスのファンだと思いますが、どうですか? ああ、やっぱりそうですか。では火曜日にお話を聞かせてもらえませんか、といった感じさ(笑)。まるでスパークス・ユニバースを舞台にした映画のように感じられるドキュメンタリーにしたかった。誠意と感謝の気持ちをもって取り組みながらも、構成には工夫を凝らしている。要するにスパークスの楽曲と同じだ。

Translated by Smokva Tokyo

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