スパークスとエドガー・ライト監督が語る、最新ドキュメンタリーと謎多きバンドの50年史

スパークスとの出会いとドキュメンタリー製作の経緯

ーエドガー監督にお聞きします。英国の多くのファン同様、スパークスを知るきっかけとなったのはテレビ番組『トップ・オブ・ザ・ポップス』だったのでしょうか?

エドガー・ライト:そう、5歳の時だった。1979年に観たあの番組ははっきりと記憶に残っている。彼らが「Beat the Clock」か「The Number One Song in Heaven」を演奏したのか、それとも両方やったのかまでは覚えていないけれどね。両親がいわゆる『NOW』シリーズの先駆けとなったベスト盤レコードをよくかけていて、その中の1曲に「Beat the Clock」が含まれていた。また別のレコードには「When I’m With You」が入っていて、どちらもよく聴いていた。

「Beat the Clock」は、5歳の子どもでも一緒に歌えるようなキャッチーな曲だった。子どもながらに「この曲は何について歌っているのだろう?」などと考えていた。モンティ・パイソンのコメディを見て、全ては理解できなくても、どうにか内容を知りたいと思うのと一緒だ。スパークスのおかげで私は、もっと賢くなって知識を付けたいと思うようになった。物事を深く追求したいと考えるようになったのも、彼らのおかげさ。



ーということは、スパークスの音楽に初めて触れたのはジョルジオ・モロダーの時代からでしょうか?

エドガー:スパークスの歴史を語る時に気づいたことがある。ファンがスパークスのどの時代から好きになったかを繋いでいくと、一つの年表ができあがる。あるいはファンの出身地を調べていくと、ロンドンとロサンゼルスを行ったり来たりしている。ロンドンのファンはおそらく、「This Town Ain’t Big Enough for the Both of Us」かモロダー・プロデュースのアルバムでスパークスを知ったということが分かる。また、ある年齢層の米国人に受けるのは『Angst in My Pants!』だ、となるだろう。つまりどのファンにも、それぞれに「最初の」スパークスがある訳だ。

その後ティーンエイジャーになって、デヴィッド・ボウイ、ロキシー・ミュージック、T・レックスなどをよく聴き出した頃、スパークスが明らかにグラムロックの集大成のようになっていた。「これがあのスパークスか? 確かに同じヴォーカルでキーボード中心だけれど……」と思った。私にとっては不可解だった。インターネットもない時代だったから、あらゆる情報を繋ぎ合わせてスパークスの全貌を知るのも一苦労だった。90年代になると、彼らの「When Do I Get to Sing ’My Way’」がヒットしてMVがしょっちゅう流れていた。「これが15年前と同じバンドか? なぜラッセルが若返って見えるんだ? どうなっているんだ?」と思った(笑)。それからハードコアなファンになって彼らにのめり込んだのは、2000年になってからだった。(2002年の)アルバム『Lil’ Beethoven』の頃かな。




ー彼らのドキュメンタリー映画のアイディアが浮上したのは、いつ頃でしょうか?

エドガー:『ベイビー・ドライバー』の脚本を、ロサンゼルスのフォルモサのすぐ近くにあるこのオフィスで書いていた時、スパークスのアルバムをよく周りの皆に聴かせていたんだ。ある時「スパークスはTwitterをやっているのかな?」とふと思い付いた。そして探し当てた彼らのアカウントを見ると、何と「スパークスにフォローされています」(Sparks Follows You)となっていたのさ!

ーそのフレーズを、そのままスパークスのアルバムのタイトルにできそうですね。

ロン・メイル:それ、いいね!(笑)

エドガー:彼らと知り合う前は、ロンとラッセルが地球上の住人だとは思いもしなかった。ロックの世界のJ・D・サリンジャーか何かだと信じていた。彼らがロサンゼルスという私と同じタイムゾーンで暮らしているだけでなく、Twitterまでフォローしてくれているとは驚きだった! 早速Twitterで「本当にスパークスのアカウントでしょうか? 私はあなた方の大ファンです」とメッセージを送ってみた。おそらくバンドのアシスタントか誰かがアカウントを管理しているのだろうと思っていた。ところが、5分かそこらでラッセル本人から返信が来たのさ。「そう、本人さ。僕たちは君の映画の大ファンなんだ!」ってね。それから24時間も経たないうちに、ビバリーヒルズでロンとラッセルと朝食を共にしたんだ。

数年後、アルバム『Hippopotamus』リリース後のツアーのコンサートに、フィル・ロード(映画『LEGO ムービー』の共同監督)と一緒に出かけた。彼もスパークスの大ファンだ。バルコニー席の両隣には、セックス・ピストルズのスティーヴ・ジョーンズとトニー・バジルがいた。会場を見渡すと、観客の年齢層は16歳〜60歳と幅広かった。私はフィルの方を振り返り、「このビッグなバンドが過小評価されているのは、彼らの全体像を説明するものがないからだな」と言った。バンドの歴史を紹介するドキュメンタリーのようなものがあれば、あらゆるファンを一つにまとめることができる。するとフィル・ロードが「君が映画を作ればいい」というから、「そうするよ」と答えたのさ(笑)。

Translated by Smokva Tokyo

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