WONK江﨑文武が語る、巨匠エンニオ・モリコーネの音楽愛と果敢な実験精神

モリコーネの息子たちに江﨑が聞く。私たちの知らないモリコーネ像

江﨑:まずはアンドレアさんにお伺いします。お父様であるエンニオ氏は「美しいメロディを生み出す作曲家」として知られていましたが、あるインタビューではそう呼ばれることを快く思っておらず、むしろ『モリコーネの秘密』でフィーチャーされているような実験的な側面もあるのだという内容がありました。コマ―シャリティとアーティストの創造性というジレンマは、作曲過程においてあなたやエンニオを悩ませるものでしたか?

アンドレア:良い作曲家というのはコマ―シャリティと「クラフト(創造性という意味で私はこの言葉を使う)」の2要素を高いレベルで有していて、それがなければオーディエンスにインパクトを残し、より長く生き残るものを生み出すことはできない。それゆえ作曲家は、「商業性と創造性のどちらを取るか?」という問題についてではなく、それら2つの異なるものを、「いかに高いレベルで結びつけるか?」について議論を交わすべきだと思っている。つまり「マーケティングの視点」と、「作曲家の創造力」、要するにアイデアを駆使したクラフトマンシップという2つのポイントだね。

私の父が偉大なのは、そのクラフトマンシップもさることながら、誰もが印象に残る強いメロディを同時に生み出せる点だと思う。メロディについて、父は私に「ひとたびメロディのアイデアを思いついたら、それはオーディエンスにとって容易に理解できるもので、メロディ自身がオーディエンスに語り掛けるようなものでなくてはならない」と言ったものだよ。

江﨑:著名なジャズミュージシャンであるエンリコ・ピエラヌンツィは、しばしばエンニオ氏のレコーディングにも参加しています。ジャズは彼の音楽にも影響を与えていたのでしょうか? ジャズミュージシャンである私は、ジャズが彼の作品にどのような影響を与えていたのかが知りたいです。

アンドレア:実験的なジャズの精神は、父の音楽に大きな影響を与えていると思う。その理由として、ジャズの中でも重要な位置を占めるブルーズの影響が父の音楽にも数多く見られるからだ。

ジャズとブルーズは同じものではないが、多くの共通点も持っている。1980年代後半から1990年代初めの父の作品を見てみると、ブルーノートが多く使用されている。たとえばキーがCの時にAbを使ったり、キーがGの時にDbやD#を使ったりといった具合にね。もっとも、ジャズの主たる部分は演奏形態にもあるということについては留意しておく必要があるだろう。数多くの名曲を世に輩出したヘンリー・マンシーニは、かつてグレン・ミラー楽団のピアニストとして活動していた「プレイング・コンポーザー」だった。ジャズの要素はそういった演奏を通じて培われる部分も大きいと思うよ。


オードリー・ヘプバーン「ムーンリバー」(『ティファニーで朝食を』より)

江﨑:アンドレアさんにとって「ジャズ」とはなんですか?

アンドレア:ジャズは私にとっても大きな意味を持っている。20世紀初頭にアメリカ南部で生まれたジャズは、ヨーロッパの作曲家やミュージシャンにも大きな影響を与えてきた。この質問への回答は、最初の質問に対する回答とも通じる部分があるかもしれない。なぜなら父から習った多くのことを通じて、長く愛されるメロディの中に自らの経験をどう反映させていくかという問いは、スケールへと帰属するからだ。メロディは基本的にはクラシック音楽がベースとなっている場合が多いが、様々な手法を用いた多様性に富む芸術を目指すことで、素晴らしいスコアを生み出すことが出来るかもしれない。デューク・エリントンなど優れたジャズ・ミュージシャンは、実際にそれを成し遂げてきたし、私自身彼らの音楽から今でも多くのことを学んでいるよ。

Edited by Aiko Iijima

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