中島みゆきが歌う救いの手 瀬尾一三と共に語る

慕情 / 中島みゆき

田家:続いて、中島みゆきさんのセレクションアルバム『ここにいるよ』Disc2寄り添い盤の9曲目「慕情」。2017年のシングルで、アルバムは『相聞』に収録されていました。『相聞』は「慕情」ありきのアルバムだったという話が当時ありましたね。このアルバムのタイトルの由来は、万葉集の中の歌の一つのジャンルで男女の恋を歌った「相聞歌」でしたよね。先週のお話の中で「老い」という話も出ましたが……。

瀬尾:長年連れ添った人たちの、お互いが年を重ねていったときの話であるというのがひしひしと感じられますよね。

田家:これはいつの時代もそうなのかもしれませんが、ラブソングの主人公の多くは若者ですよね。でもそこに入らない人の方がむしろ多いわけで。

瀬尾:愛はどの年代でも、どの世代でも絶対あるでしょう。だから青い時代の人たちばかりが最高の愛だなんて思わないでほしいですね(笑)。愛は人間死ぬまで常にあります。持っていかなきゃダメだし、愛より急ぐものはどこにあっただろう、という歌詞について、僕はすげえと思って。僕は完全に愛を後回しにして終わっている人なので(笑)。挙げ句の果てに、甘えてはいけない、時に情はないというのは、まるで俺に言ってるのかな? とすごく響きましたね。

田家:ドラマ『やすらぎの郷』の台詞で「もし生まれ変わって君に会えるなら、若い時の君ではなくて今の君がいい。なぜなら思い出がたくさんあるから」、と。あれは痺れましたね。

瀬尾:ドラマのあの先生の言葉は巧みですからね。脚本を担当していた倉本聰さんは素晴らしいです。

田家:アルバムのタイトルが万葉集の歌のジャンルの一つと言いましたが、みゆきさんの歌というのは、100年後、200年後も万葉集のように聴かれるんでしょうかね。

瀬尾:そうでありたいですよね。どの時代でも通じることを歌っているので。彼女は表のような表現で裏の表現をしているんです。表に見えても、表裏一体の裏の中に普遍的なものがある。ある年代になったら、昔は何のことを歌っているか分からない歌が、急に沁みてきたりする。反復してこそ味が出てくるものだと思いますよ。スルメのように噛めば噛むほど味が出てくる曲が多いので、一回で諦めずにとっておいてください。そして、何年後かにまた聴いてみてください。

田家:20代、30代の時にこの曲を聴いてあまりピンとこなかった人も、10年、20年と経つとわかってくるかもしれません。1週目で「糸」を流してお話を伺った時に、まさかこんなに長く聴かれる曲になるとは思わなかったというお話がありました。なぜかが分かれば皆そういう曲を作るんでしょうけど、一体他の曲と何が違ったんでしょうね。

瀬尾:分かったら面白くないと思いますよ。でも一生懸命に作る形が一番いいのではないかと思いますけどね。

田家:「時代」もそうですが、終わるとか倒れるということと、もう一度そこから歩き出すという再生のようなものがテーマになっていて。この「慕情」も、もう一度というのがあります。世の中の人々が一番大変な場面を迎えた時に、もう一度やり直すということに繋がって歌われていくということもあるんでしょうね。

瀬尾:皆さんが経験したものと似たような感覚を持ちながら、その挫折感の修復の仕方みたいなものを彼女は最大公約数に表現していくので。当てはまる人が多いんじゃないでしょうか。

田家:なぜ中島みゆきの曲が聴かれ続けるのか? これが答えですね。

Rolling Stone Japan 編集部

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