女性死刑囚の刑執行をめぐる悲劇、虐待とトラウマと精神疾患

米カンザス州メルヴァーン在住だったころのリサ・M・モンゴメリー受刑囚(Photo by Maryville Daily Forum/AP)

1月13日未明、米連邦政府は2004年に妊婦を殺害し、胎児を連れ去ったリサ・モンゴメリー死刑囚(52)の刑を執行した。トランプ前大統領退任間際、わずか6カ月間で、ソニア・ソトマイヨール連邦最高裁判事が「急ピッチの連続執行」と呼んだように、政府は過去60年間で執行した数の3倍以上の囚人を死刑にした。モンゴメリー死刑囚はその中の一人だ。

ニューヨーク・タイムズ紙によれば、連邦政府が女性の死刑を執行したのは67年ぶり。2004年、4児の母親だったモンゴメリー受刑囚は24歳の妊婦ボビー・ジョー・スティネットさんの腹部を切り裂いて赤ん坊を取り出し、出血するスティネットさんを放置して死に至らしめた。翌日、警察が胎児と一緒の彼女を発見。彼女は胎児を自分の子として通そうとしたが、やがて罪を認めた。

だが最初の裁判で、陪審にはモンゴメリーが罪を犯す前に耐え忍んでいた人生の全容は伝えられなかった。連邦死刑人身保護プロジェクトによれば、彼女の弁護士だったフレデリック・デュシャルト氏は拘留中の彼女と3回しか面会せず、裁判では彼女が想像妊娠に悩まされていたという薄っぺらな主張を繰り広げて心神喪失を申し立てようとした。

2012年からモンゴメリーの事件を扱ってきた公選弁護士ケリー・ヘンリー氏に言わせれば、通るはずもない言い分だった。「死刑が求刑されている裁判で、心神喪失を理由に無罪にしてくれと陪審を説き伏せるなんて」と言うヘンリー氏は、死刑判決に関してはこの道20年の専門家だ。「陪審は信じるわけがありません」。実際、その通りとなった。陪審は5時間足らずで有罪の評決に至り、彼女には死刑判決が言い渡された(デュシャルト氏はかつて、この裁判ではどんなミスも犯していない、と主張した)。

事件に至るまでのモンゴメリーの凄惨な人生を新たな弁護チームが調べ始めたのは、量刑判決が下されたあとだった――もし詳細が明らかになっていれば、始めから死刑は求刑されていなかったかもしれない。アメリカ法曹協会は、裁判で死刑が求刑されている場合、被告弁護人は「最低限の義務として」「減免専門家」と協力して臨まねばならない、と定めている。減免専門家とは被告人の経歴を掘り下げ、トラウマや精神疾患、被告人を1人の人間として陪審に理解させる手掛かりとなるものを明るみにする調査員だ(アメリカ法曹協会のガイドラインにも関わらず、デュシャルト氏は専門家をつけなかった)。新たな弁護チームは数百回におよぶ面会を経て、何十年にも及ぶ虐待、レイプ、凄惨な拷問の事実を突き止めた。

Translated by Akiko Kato

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