田中宗一郎×小林祥晴「米ローリングストーン誌の年間ベストから読む2020年の音楽シーン」

2020年はテイラーとカーディ・Bの年?

田中 12月にその続編的なアルバム『evermore』までリリースして世間をあっと言わせたテイラー・スウィフトの『folklore』は、ローリングストーンでは年間ベストアルバム1位。これは?

Taylor Swift - folklore


小林 もともとRollling Stoneのテイラーに対する評価って高いんですけど、今作の場合はやっぱりパンデミック以降の音楽の作り方やサウンドの在り方を提示して、なおかつ、そういった音楽的冒険が過去作以上の傑作を生みだしたという判断ですよね。

田中 クアランティン期間にまるで彼女の寝室からオーディエンス全員の寝室に静かに語りかけるようなアルバムを作って、彼女が併走してきた加速主義的な2010年代とは違う新たなパラダイムを提示したとも言えるわけだし。俺、いつも「セレーナ・ゴメスは常に見過ごされる人だ」と言ってるんだけど、彼女がパンデミック直前に出したアルバム『Rare』はとにかくビートとプロダクションが最高だったんですよ。生音の質感を生かしたビートにしても、2010年代のアイデアの集大成感があった。でも、それさえもパンデミック以降はどこか古臭く感じられてしまう。それに比べると、テイラーは見事に新たな始まりをキャプチャーしたっていう印象がある。

小林 そう思います。

田中 じゃあ、年間ベスト・ソング。The Guardianはレディー・ガガ&アリアナ・グランデ「Rain On Me」を、ローリングストーンとPitchforkはカーディ・Bとミーガン・ジー・スタリオンの「WAP」を選んでいる。このチョイスについてはどう?

Lady Gaga, Ariana Grande - Rain On Me


Cardi B - WAP feat. Megan Thee Stallion


小林 「Rain One Me」は「どんなに辛いことがあって悲しみの雨が降り注いでも、負けずに立ち上がるんだ」っていう曲ですけど、それをパンデミック以降の世の中の状況と照らし合わせて、時代のアンセムとして評価している。非常にわかりやすく筋の通った選出だなと。

田中 ガガって「Born This Way」の頃からアンセミックなメッセージソングを書くという部分ではずっと変わらないんだよね。それに対し、「WAP」は濡れた女性器のことを歌っているだけとも言える。でも、それを歌うことが政治性を帯びる。実際、保守的な男性層から激しいバックラッシュを受けた。それってポップソングの機能としてはより現代的だという気もするから、俺としては「WAP」に一票かな。

小林 僕も断然「WAP」ですね。この曲が図らずも政治性を帯びたという話で言うと、『Saturday Night Live』でトランプとバイデンの不毛な討論会を茶化したコントみたいなのがあって、そこでカマラ・ハリスに扮したマーヤ・ルドルフが「今日わかったことはアメリカには『WAP』が必要だということです、つまりWoman As President(女性大統領)」って言って、めっちゃ盛り上がったんですよ。狙わずともそういったところに接続されるのは、まさに時代のアンセムですよね。



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