『ソウルフル・ワールド』で大注目の逸材、ジョン・バティステが語る新しい音楽の役割

ジョン・バティステ(Photo by LouisBrowne)

ディズニープラスにて公開中のピクサー最新作『ソウルフル・ワールド』で劇中歌とエンド・ソングを担当したジョン・バティステが、最新アルバム『ウィー・アー』を3月19日にリリースする。米国「フォーブス」の名物企画「世界を変える30歳未満の30人」に選出されるなど、快進撃が止まらない気鋭ジャズ・ミュージシャンの歩みを、本人の発言とともに解説する。

ジョン・バティステが音楽を手懸けた映画『ソウルフル・ワールド』は、昨年末の配信だったにも関わらず、2020年のベスト映画に挙げる著名人がいるなど、高い評価と人気を得ている。制作したのは『インサイド・ヘッド』や『モンスターズ・インク』といったアニメーション映画で知られるピート・ドクター監督で、構想から23年をかけた意欲作だ。ネタバレにならないように少しだけ紹介すると、地上のニューヨークと、人間が生まれる前のソウル〈魂〉の世界、2つの世界を描いていて、いわゆる前世を覗き見ることになるのだが、滋味深いセリフがちりばめられていて、大人が楽しめるアニメーションとなっている。

●【動画を見る】ジョン・バティステが歌う『ソウルフル・ワールド』のエンドソング「イッツ・オールライト」

物語の主人公ジョーは、地上のニューヨークで生きている、ジャズ・ミュージシャンを夢見る音楽教師。ジョンは、彼を中心とする地上の音楽を作曲している。これまでにスパイク・リー監督の映画『レッド・フック・サマー』(2012年全米公開・日本未公開)にオルガン奏者として出演したことはあるけれど、映画音楽を本格的に手懸けるのは初めてのことだ。

「もともとピクサーの作品が好きなんだ。テーマを深く掘り下げているし、ソウルも感じられる。加えて、全世代、全文化をひとつにする作品を創り、全人類に向けて発信する、という彼らの理念にも共感するので、喜んでオファーを引き受けた」

映画を観ると、主人公ジョーのピアノを弾く指のリアルな動き、音が聴こえてくる映像に驚くが、それが示すのは作曲する段階で映画は出来ていなかったということ。ジョンは、監督から物語、テーマ、観客に何を感じてもらいたいのか、事前にさまざまな説明を受けた。そのなかで深く共鳴したのが、「ジャズを聴いている人なら誰でも、ファンでも、初めて聴く人でも、音楽に入り込めるような楽曲を書いて欲しい」という言葉だった。

「聴いたらきっと好きになるだろう、という音楽をまだ知らずにいる人達に紹介することにやりがいを感じている。多くの人は、普段慣れ親しんでいる音楽を聴くから、ファンでなければ、ジャズを聴く機会ってなかなかないんじゃないかな。これは声を大にして言いたいんだけれど、ジャズって本当に素晴らしい表現が出来るアートフォームなんだ。だから、それをもっと大勢の人達に知ってもらいたい、この作品を通して彼らの人生観、世界観さえも変えるような素晴らしい音楽、ジャズに出会ってもらいたいと強く思ったんだ」


1月23日に公開された新曲「アイ・ニード・ユー」のMV。バティステはリトル・リチャードやジェームス・ブラウンを連想させるストーリーのリードマンと、バンド・リーダーの一人二役を演じる。1920~40年代のハーレムでのスイング・ダンスにオマージュを捧げ、当時流行した映画のエッセンスを加えた。

でも、ジャズって難解だったり、聴く人にも知識が求められるイメージがひとり歩きしている。実際に「マイルス・デイヴィスってカッコいいね」なんて女子が言うもんなら、「いつ、どこの録音の演奏が好き?」なんて言葉が返ってきたりする。子供から大人まで素人が楽しめるジャズを作るのって難しい課題なのではないだろうか。

「僕は、ニューオリンズで生まれ育った。ベーシストの父は、叔父らと一緒にバティステ・ブラザーズ・バンドを結成していて、僕も子供の頃からいとこと共に参加していた。ニューオリンズでは音楽をジャンルという視点で見ることなく、音楽というのは人と人のつながりの中から生まれるものという意識が根付いている。その考え方を僕は、ジュリアード音楽院でも実践してきた。だから、みんなに聴いてもらえるようなジャズを作曲することは、新しい挑戦ではなく、約15年のキャリアのなかで積み重ねてきたものがまさにこの作品で花開いたとさえ思っているよ」

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE