マシン・ガン・ケリーが語る時代精神「ロックンロールにはロックスターが必要なんだ」

マシン・ガン・ケリー(Photo by Alexandre Faraci)

「ロックンロールは止まらない。ロックはポップカルチャーにおいて最も重要で予測不可能なものであり、そこにルールはまったく存在しない」1983年に刊行された米ローリングストーン誌の『Encyclopedia Of Rock & Roll』にはこのように記されている。しかしここ10年近く、アメリカのメインストリームを席巻していたのはヒップホップ/R&Bであり、ロックは若者の音楽としての求心力を失いつつあった。そんな逆風を吹き飛ばすように、ロックの救世主として急浮上したのが「MGK」の愛称で知られるマシン・ガン・ケリー。すでにラッパーとして一流のキャリアを築いていた彼は、2020年の最新アルバム『Tickets To My Downfall』で自身のルーツであるポップパンクに回帰。疾走感に満ちたサウンドで、約1年ぶりにロックを全米チャートの頂点に連れ戻した。彼はなぜこの時代にギターをかき鳴らしながら歌うのか?

※この記事は2020年12月25日発売の『Rolling Stone JAPAN vol.13』に掲載されたもの。取材は同年11月にZoomで実施。

【コラムを読む】ロックで全米チャートを制覇、マシン・ガン・ケリーとは何者か?




ポップパンクが体現した自由「今は絶対的な存在が欠けている」

―僕は2002年のWarped Tourに足を運んだことがあります。バッド・レリジョンやNOFXといったベテランの貫禄、新しい価値観を体現したグッド・シャーロットとニュー・ファウンド・グローリー、サーズデイやザ・ユーズドのようなバンドが持つ多様性。そして新興勢力だったレーベル「Drive-Thru Records」の躍進。まさにポップパンクやエモといった音楽がアメリカで爆発していたタイミングで、とても刺激的でした。

MGK:ワーオ、行ったんだ。俺は2001年のWarped Tourに行ったよ。その後、俺自身も何度かパフォーマンスしてるけど、カリフォルニアのヴェンチュラでパフォーマンスした時に、ゲストでリンキン・パークが出てきたことがあって、あれは最高だった。2000年代のポップパンク/エモのムーブメントはベストだったよな! マジで最高! あれはすごく新鮮だった。(それ以前の)パンクは怒りに満ちてて政治的、もしくは超反政治的で、楽しさとは無縁だったからね。あれはあれで最高だったと思う。でも、ポップパンクのバンドは誰もがすごく楽しそうにしていたから、聴く側もそこに心地よさを感じることができたし、彼らが作っていた曲がみんなをハッピーにしてくれた。パンクの場合、みんなで一つになって何かのアンチにならなきゃいけなかっただろう? 「○○なんてクソだ!」とかさ。でも、どこにも属さず、どちらかに偏ることなく、ただ自分自身でありたい人たちだっていたわけだ。エクストリームになりたくない人たち。ポップパンク/エモの場合、音楽にその強要がなかった。それによってサブジャンルへのアクセスがすごくしやすくなったし、音楽を純粋に楽しむことができるようになったんだ。グリーン・デイを聴く時は、右寄りとか左寄りとか、そういうことを一切考えなくてよかっただろう? マジでめちゃくちゃ楽しいムーブメントだったと思う。



―blink-182とグリーン・デイがジョイントツアーをやったり、マイ・ケミカル・ロマンスやテイキング・バック・サンデイなどの作品がチャートの上位に登場したりして、当時は若者からも熱烈に支持されていた音楽スタイルだったと思うんだけど、それがいつからかヒップホップに変わっていきました。あなたはラッパーとしてデビューする前に、パンクバンドで活動していたそうですね。

MGK:ガレージバンドにいたときの俺はものすごく若かった。曲の主題はめちゃくちゃ子供っぽくて、11歳や12歳が聴いてちょうどいいくらいの内容だったんだ(笑)。でも、14歳~15歳くらいでラップバトルにハマりだした。そこからよりデカいリスペクトを得るために、言葉をうまく使うことに没頭していったんだ。誰が一番言葉を操り指揮をとることができるかに魅力を感じるようになっていった。そのときの経験が、俺をこんなに支配的なパフォーマーにしたんだ。20人程度の少ない観客をいかに納得させられるか、みたいな環境でずっとパフォーマンスしてきたからね。その規模の中では、俺はベストだった。だから、マシン・ガン・ケリーの初期の作品を振り返ってみると、気持ちの表明みたいなものが多かったなと思う。周りのみんなが不可能だと言った夢を実現していく、小さい街から出てきた少年についてとかね。


MGKが2010年に発表した活動初期の楽曲「Chip Off the Block」

―ラップに移行したのは、バンドにうんざりした部分もあったんですか?

MGK:ああ。当時はたくさんの人から「お前歌えないな」と言われたものさ。ホイットニー・ヒューストンみたいに歌えない限り、シンガーとは見做されない時代だったから。でもさ、カート・コバーンだってちゃんとしたシンガーというわけではない。彼のハーモニーや声の使い方を気に入らない人もいる。俺もそうだったんだ。「歌詞はよくても歌い方がイマイチ」とか言われてさ。でもそこから、パンクシンガーにとって大事なのは、歌の上手さじゃなくてフィーリングとエモーション、そして口から出てくる言葉なんだってことに気がついたんだ。

最近はロックンロールに勢いがないよな? それはなぜかというと、絶対的な存在が欠けているから。フー・ファイターズだったらデイヴ・グロール、グリーン・デイだったらビリー・ジョーといった存在がいて、彼らの音楽と結びつきを感じ、彼らの言葉を聞きたいと思えた。でも今は、バンドがバンドでしかなくなってしまって、そのメンバーが誰かなんてどうでもよくなってきている。ニルヴァーナのファンは、ニルヴァーナだけじゃなくて、カート・コバーンのことも大好きだろう? そのバンドの中に自分が繋がりを感じられる存在がいることはすごく大切なんだ。最近はみんなルールに従いすぎて、ロックスターが消えてしまったんだと思う。社会の声を気にしすぎて、自分の言葉を持たないアーティストが増えてしまったんだろうな。それこそがロックンロールの魅力だったはずなのに。「周りなんて気にしてられねえ! 誰が何を言おうが俺は好きな格好をするぜ!」みたいなさ。

Text by Toshiya Oguma, Translated by Miho Haraguchi

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