マシン・ガン・ケリーが語る時代精神「ロックンロールにはロックスターが必要なんだ」

マシン・ガン・ケリーとは何者か?

Text = Machizo Hasegawa

“クソダサい野郎だな/お前がやっていることは辞書を引きながら家に引きこもっているだけ/ラップ・ゴッドなんてクソ、俺はラップ・デビルだぜ/心臓発作は起こさないでくれよ/誰か、奴を助けてやってくれ/歳をとって膝がガタガタなんだから”

あのラップ・ゴッド、エミネムに対してこのような辛辣なディスを浴びせる恐れ知らずの男、それがマシン・ガン・ケリーである。

MGKことリチャード・コルソン・ベイカーは1990年生まれ。父親は宣教師だったが、国内外を渡り歩く生活に疲れた母親が出奔したため、叔母の住むコロラド州デンヴァーで暮らすことになった。こうした家庭環境からかイジメのターゲットとなり、それが彼を音楽へと駆り立てるようになったという。

ロックとヒップホップを同じくらい愛聴していた彼がラッパーを目指すようになったのは、高校時代を過ごしたオハイオ州クリーヴランドにヒップホップ・シーンが存在したからだろう(母校シェイカーハイツ高校の6年上にはキッド・カディがいる)。16歳のときに1930年代に悪名を轟かせたギャングから名前を頂戴したMGK名義の活動を開始した彼は、2009年にニューヨークのアポロシアターのアマチュアナイトで優勝を果たしている。

そんなMGKに注目したのが、あのノトーリアスB.I.G.を発掘したショーン・パフィ・コムズだった。コムズのバッドボーイ・レコーズと契約したMGKは、2011年に『Lace Up』でメジャーデビュー。全米最高4位を記録する快調なスタートを飾る。2017年に発表した3rdアルバム『Bloom』からは“俺ら二人とも若いんだし夜はまだ始まったばかり/お前は俺のドラックだ/この顔の感覚がなくなるまでお前を吸い尽くしたい”とデュエット相手のカミラ・カベロを誘惑するシングル「Bad Things」が大ヒット。イケてるバッドボーイ・ラッパーとしての地位を確立した。



順風満帆だったそんなMGKの前に立ちはだかったのが、少年時代に崇拝していたエミネムだった。もともと2012年にエミネムの娘ヘイリー(当時16歳)の写真に「クソエロいなあ」とTwitterで呟いてエミネムの怒りを買っていたMGKだったが、エミネムの怒りは収まっておらず、2018年に発表されたアルバム『Kamikaze』収録曲「Not Alike」で「俺になりたがっているけど絶対なれない奴」とディスられてしまったのだ。

尊敬してはいるけれど売られた喧嘩は買う。MGKはこの曲に対してわずか3日後にアンサーソングをYouTubeでアップする。それが冒頭にリリックを引用した「Rap Devil」だった。同曲は最高13位のスマッシュヒットを記録する。



結局、その1週間後に発表されたエミネムの再アンサーソング「Kill Shot」でMGKはボコボコにされてバトルは終了するのだが、久々にエミネムを本気にさせた男として、MGKのヒップホップ・シーンにおける評価は揺るぎないものになったのだった。

MGKもこのバトルでラッパーとしてある種の到達点に達したと感じたのかもしれない。2019年発表の『Hotel Diablo』では、10年近い親交があったblink-182のトラヴィス・バーカーとヤングブラッドと共演したロックチューン「I Think I’m Okay」を発表。同年にNetflixで公開されたモトリー・クルーの伝記映画『ザ・ダート:モトリー・クルー自伝』ではドラマーのトミー・リー役を演じるなど、ロックスター的なイメージを打ち出し始め、2020年にバーカーを共同プロデューサーに迎えたロックアルバムのリリースを宣言した。



当初は「ラッパーにロックができるわけがない」と疑問を呈されたMGKだったが、コロナの自粛期間中に「Lockdown Sessions」と題して、パラモア「Misery Business」やリアーナ「Love’s On The Brain」、そしてオアシス「Champagne Supernova」のカバー動画を発表。そのクオリティーの高さでネガティブな見解を一蹴。女優のミーガン・フォックスを主演に迎えたリードトラック「Bloody Valentine」のMVは全世界で1億回以上のストリーミング数を記録した。

そして満を辞して発表された『Tickets to My Downfall』は2000年初頭のポップパンク・テイストを現代のヒップホップ的感性で解釈した音楽性が驚きをもって迎えられ、ビルボードでキャリア初の首位を獲得。MGKはヒップホップとロックを自在に行き来する唯一無二の存在として、今後の活躍が期待されている。

●【関連記事】マシン・ガン・ケリー、傷つきながらも必死に生きる若きラッパーの生き様




マシン・ガン・ケリー
『Tickets To My Downfall』
発売中
試聴・購入:https://umj.lnk.to/MGK_TicketsTo

Text by Toshiya Oguma, Translated by Miho Haraguchi

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