なぜ人は事実を受け入れられないのか 自己の意見に固執してしまう人間の傾向を考える

認知神経科学者であるターリ・シャーロットの、イギリス心理学会賞を受賞した著書『事実はなぜ人の意見を変えられないのかー説得力と影響力の科学』では、そのタイトルの通り、事実だけでは人の意見が変えられない数々の事例や研究が紹介されています。

そのひとつが「死刑を強く支持する学生」と「死刑に強く反対する学生」を集めた実験です。その学生たち全員に「死刑の有効性に関する証拠」と「死刑は効果がない証拠」を示した研究結果(実際はその資料は偽物で、そのことは学生には伏せられています)を提示します。するとその結果は、もとの自分の考えを強化する場合に限ってそのデータを信用し、反対のデータは説得力のない研究だと主張する、というものでした。この実験によって、事実やデータを提示しても、物事の両面を検討するようになるどころか、意見の両極化が進んでしまうことがわかったのです。

これと同様のことは気候変動や銃規制に関する議論の際にも起きました。人は、自分が持っていた世界観に合う情報を得たときだけ、その意見を変える傾向があるのです。新しいデータを提供されたとき、自分の先入観(「事前の信念」と言います)を裏付ける証拠は即座に受け入れ、反対の証拠は冷ややかに評価してしまうのです。そして、現代社会での私たちは常に相反する情報にさらされているため、時を経て情報が増えるたびにこの傾向は増幅し、両極化が進んでしまうのです。また自分の意見を否定されると、まったく新しい反論を「思いついて」、もっと頑なになってしまう、ということもあります。

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