中島みゆき、2021年に聴くべきセレクションアルバム 瀬尾一三とともに振り返る

負けんもんね / 中島みゆき

田家:続いて2020年12月に発売になったセレクションアルバム『ここにいるよ』の9曲目の「負けんもんね」。2010年のアルバム『真夜中の動物園』の曲です。アルバム『ここにいるよ』の起承転結の転の部分がここで来たという感じですね。

瀬尾:この曲でいいのかという感じの転ですが(笑)。でも、これがセレクションの面白いところですよ。

田家:この曲を実際にお作りになった時に覚えていることはありますか?

瀬尾:ある意味で、彼女がちょっと道化になってみんなを代表して歌うという部分や自分自身の吐露も込めて作ってるんですけど、僕は違うバージョンの「ファイト!」だと思っていて。負けんもんねっていうことはファイトと一緒ですよ。

田家:なるほど。女子高生が言う「ファイト!」と、動物が言う「負けんもんね」ですね。真夜中の動物園は、動物たちが普段人間に見せないような動きをしたり会話をする、というアルバム。動物園には、人間が動物を見るだけではない対等な関係があると。

瀬尾:動物が人間を見ていると言うこともありますしね。表裏一体で、檻があるかないかだけの問題で。動物から見たら人間側に檻があるようにも見えるかもしれないし。

田家:みゆきさんの中では、動物を人間と同じような生き物と捉えられていると思えますね。

瀬尾:対等に見ているというのがあるかもしれません。動物側から見たら、それが鳥だったり蝶々だったり、色々なものから見るという視点がある。人間だけの目線だけではなく、色々なところに視点を移行させて物事をみている人かもしれない。怖いですね(笑)。

田家:でもそれが色々なものに対しての命の平等にもつながるのかもしれないですね。

瀬尾:色々な目線で見れるということは、彼女が色々なものに憑依できるということかもしれないですし。

田家:でも、瀬尾さんも憑依しながらアレンジしているように見えますよ。

瀬尾:僕はむしろ憑依されているかも(笑)。

田家:では改めてアルバム9曲目「負けんもんね」。シンプルな「ファイト!」に対して、ゴージャスな「負けんもんね」。

瀬尾:いやいや(笑)。そういうつもりでやっているわけではなくて、一人だけで負けんもんねって言っていても浮くじゃないですか。だからブラスも入れて、皆でいけー! と言って、メインの人が負けんもんね! と言っている様子を表現したくて。これで演奏を「ファイト!」みたいにシンプルにしてしまったら、やせ我慢みたいじゃないですか(笑)。

田家:これはとても週刊誌的で下世話な質問ですが、歌詞に出てくる「あの人がいるから負けんもんね」という歌詞がありますが、みゆきさんにとってのあの人というのは…?

瀬尾:それはありませんよ(笑)。

田家:(笑)。というのも、このアルバムの発売日が松任谷由実さんの『深海の街』と同じ週でした。それでどちらのランクが上になったかというのがネットで話題になっていました。

瀬尾:皆さんも大変ですね、そういうこともチェックしなきゃいけなくて(笑)。松任谷正隆とユーミンというコンビネーションはやっぱり気になりますので、時々聴いたりするんです。僕も松任谷正隆の音楽のルーツや好きなものを知っていて。これもお互い様で、彼も僕の好きなものを知っているんですけど、元々僕らの好みは似ていて。彼は自分の音楽のルーツを派生させて作っているけど、僕はアーティストによって色々変化させていくので。彼は突き詰めたところでユーミンとやっていく、僕は色々なアーティストに自分のテイストを加えながら化学変化を起こすことを試みようとしている。なので、元は一緒でもそういう違いはあるかもしれません。

田家:音楽の始まりということでは、松任谷正隆さんもほぼ同時期でしょう。

瀬尾:そうです。ただ、彼はプログレとかヘビメタとかではないですけど、アメリカのウェストコーストやメンフィスの感じが好きなのは知っていますので。

田家:なるほどね。この「負けんもんね」を聴いてユーミンの顔が浮かんだ方、それは的外れです(笑)。

瀬尾:二人はとても仲良いですし、敵対してませんよ(笑)。

Rolling Stone Japan 編集部

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