コロナで炙り出された実力差から全力で現実逃避してみたら、「銃・病原菌・鉄」を追体験した話

NY州保健局のサイトには「PCBによる汚染。15歳未満の児童と50歳未満の女性は絶対に食べるな」と書いてあるのでリリースしてます。

脱サラ中年のニューヨーク通信。コロナショック以降、ミュージシャンとしては廃業状態。ならば籠もって音源でも作ればいいのに、どうやら釣り三昧の日々を送っていたらしく。彼がトチ狂った裏には、世知辛い格差というのがあったようで……。

※この記事は2020年9月25日発売の『Rolling Stone JAPAN vol.12』内、「フロム・ジェントラル・パーク」に掲載されたものです。

ほぼ毎日釣りに出かけている。何なら1日2回、釣りに行く。なぜこんなことになってしまったのか、いまとなっては思い出すのも容易ではないけれど、めっきり自分が何者なのかわからなくなってしまった。

この連載の1回目からたびたび、私はアメリカでミュージシャンとして生計を立てることは、ひょっとしたら日本より難しくないのでは、というアイデアを提示してきた。なぜなら日本では滅びてしまった生バンド文化が強く根付いているからで、飲み屋、結婚式、教会、町内のお祭りからテーマパーク、あらゆる場所にバンドを呼んで演奏させる慣習がある。機会が多いゆえ参入ハードルはそこまで高くなく、現に私レベルの腕前でも、ミュージシャンと名乗ることに躊躇がない程度には人前で演奏をし、ギャラを頂戴する機会を得てきた。

ところがコロナですべてが変わってしまった。生バンドが入るあらゆる空間が閉鎖されてしまったのだ。

このシャットダウンによって、たとえば富裕層と貧困層とか、リモートワーカーとエッセンシャルワーカーとか、あらゆる格差が克明に炙り出されたわけだけれど、それはミュージシャンも例外ではなくて、ひどく単純化して言うと、スタジオレベルとライブミュージシャンとの間にあった見えない壁のようなものが、可視化され、かつその厚みが極大化してしまった感がある。

さっきライブミュージシャンとして食っていくにはアメリカは悪くない場所だ、と書いたけれど、話がレコーディングとなると様相がまったく変わってしまう。なにせ100m走9秒台の選手が56人もいる国だ、3.3億人の人口を裾野に世界でもっとも苛烈なコンペティションが繰り広げられており、しかもスタジオミュージシャンの需要は年々減り続けている。競争が激烈すぎて、まずは度を越したバカテクじゃないと入り口にすら立てない。私はセンスで勝負、みたいな切り口が成立しない。その上で求められる個性をプレゼンテーションできた者だけに、電話がかかってくる。

そしてレコーディングにまつわる仕事は、コロナ下で減りこそすれゼロにはならなかった。もちろん苦しいのはみんな一緒だけど、私の周りのライブミュージシャンたちは仕事がほんとにゼロ。ゼロとイチではだいぶ違う。主立ったライブハウスは年内の営業断念を発表し、地元出身のやつら以外、大半が国内外の実家に帰ってしまった。私はといえばNYでミュージシャンとして活動できている、というアイデンティティをすっかり失い、端的に言えば鬱状態になっていた。

これは無理やりにでも外出ないとメンタルやばいぞと思って、毎日、家のすぐそばを流れるイーストリバー沿いの公園を散歩し始めたのだが、どうもぽつぽつと釣り人を見かける。釣り人はチャイナタウンのおじさんたちがいちばん多く、あとヒスパニックに白人黒人がちょいちょい混じる。

メインの対象魚は、ストライプドバスというスズキの近縁種。観察していると、日本ではブッコミ釣りと呼ばれる昔ながらの釣り方をしていて、どうやらあんまり釣れていない。沖合の船ではボコボコ釣れてるらしいので、サカナがいないわけでもなかろう、何かやりようがあるのではないか。思い浮かんだのは、日本におけるスズキのルアー釣り(シーバスフィッシング)のことだった。

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