パンデミック新時代、コウモリ・蚊・ダニの恐るべき伝播力

「ダニをより深く研究するほど、新たなウイルスが発見される」

しかしベントは、Hyalommaの運動能力と視力の高さに注目して研究しているのではない。ヒトに感染させるクリミア・コンゴ出血熱(CCHF)の原因となるウイルスの主要な宿主である点に着目しているのだ。CCHFは簡単に言えばエボラがやや弱まった疾患で、多くの場合、高熱、関節痛、嘔吐を伴う。また、顔や喉に赤い発疹が出る。発病から4日程度で酷いあざや鼻血といった症状が見られ、多くの場合、さまざまな場所からの出血が止まらなくなる。症状は2週間程度続く。今のところ治療法も、ワクチンも、治療薬も無い。CCHFの致死率は、約5~30%だ。

現時点でベントが知る限り、米国内でHyalommaダニが存在するのは、ガルベストン研究所内だけだ。自然の世界では、北アフリカ、アジア、ヨーロッパの一部(トルコでは年間約700件のCCHFが確認されている)に生息している。温暖で乾燥した気候を好むHyalommaダニは生息地を拡大しつつあり、近年はスペインやインド北部でもCCHFによる死者が出ている。

ベントは彼の研究室内でHyalommaダニのコロニーを形成し、ネズミやウサギを与え、CCHFウイルスに感染させている。「CCHFウイルスはネズミやウサギにはなんの影響も無い。ヒトに対してのみ危険なウイルスだ」とベントは指摘する。彼はHyalommaダニとCCHFに関する根本的な問題を研究している。人々は自然の中を歩きながら、まさか自分が目玉から出血するウイルスに感染するなどとは考えもしないだろう。CCHFはそんな人々を震え上がらせるに違いない。問:Hyalommaダニは米国内に定着するだろうか? 答:ほぼあり得ないだろう。問:アフリカで他の種類のダニがCCHFウイルスを運ぶ可能性はあるか? 答:あり得るが今のところ「二次的だ」とベントは言う。問:CCHFの空気感染はあるか? 答:「CCHFはとても古いウイルスで、今になって突然変異する理由はない」とベントは言う。しかしベントは、引き続き懸念を抱いている。

病原体の媒介者として、ダニは蚊とは大きく異なる。蚊の寿命が数週間なのに対し、ダニは最長2年間も生きる。しかし、気温の変化に敏感で寒冷気候や乾燥気候で長く生きられない点は、蚊と同様だ。地球温暖化が進む中で、ダニは暖かい地域へ居住地を拡大している。1年間に50km近くも北へ移動している種類がいる。吸血動物の見たことも無いパレードが、新たな地域を占領している。殺虫剤で駆除するのは難しく、また彼らは生き抜くための多くの技を持っている。ダニは落ち葉の上に唾を吐いておき、喉が渇いた時に飲む。そうやって長期間水が無い環境下でも生き延びることができるのだ。気温の上昇もまた、ダニの食生活を変えている。最近のある研究によると、気温が上昇すると、クリイロコイタマダニが噛み付く標的をイヌからヒトに向ける比率が倍増するという。クリイロコイタマダニは、致死率4%のロッキー山紅斑熱を媒介する。米国ではダニが媒介する感染症が20種類以上あるが、新たな種類の感染症が次から次へと発見されている。「ダニをより深く研究するほど、新たなウイルスが発見される」と、マヨ・クリニック(ミネソタ州ロチェスター)のボビー・プリット(微生物学)は言う。

Translated by Smokva Tokyo

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE