パンデミック新時代、コウモリ・蚊・ダニの恐るべき伝播力

気候変動が蚊に与える影響

世界には、およそ3000種類の蚊がいる。その中でも公衆衛生の観点から懸念される種類は、ほんのひと握りだ。ウエストナイルウイルスを運ぶアカイエカ、ヤブ蚊としても知られ、アジアから最近米国へ渡り、デングウイルスやジカウイルスの宿主となり得るヒトスジシマカ、ヒトの血液に執着するネッタイシマカなどが挙げられる。

中でもネッタイシマカはデング熱、ジカ熱、黄熱、チクングンヤ熱の原因となるウイルスを運ぶ強力な媒介者であり、地球上で最も危険な生物の1種類だと言える。同時に、最もヒトに近い存在でもある(ファウチ博士曰く、ネッタイシマカは“独特のヒト寄生性”があるという)。蚊の中のゴールデンレトリバーとも言えるような存在で、人間の家の中や周囲を居心地が良いと感じ、ボトルキャップに溜まった清潔で新鮮な水の中やプランターの縁に卵を産みつける。他の種類の蚊よりも高温を好むため、温暖化した地球上での暮らしにうまく適応しやすい。

気候変動が蚊に与える影響は、容易にモデリングしやすい。蚊は気温の変化にとても敏感で、基本的に居心地の良い地域を求めて移動する性質がある。そして、蚊にとって居心地の良い地域が、拡大を続けている。ネッタイシマカが媒介する病気の感染数は、米国を含む世界中で毎年5000万を超える。症例は50年前と比べて30倍に増えている。その原因は、気候変動や土地開発、人口増加による。例えばメキシコシティは、ネッタイシマカが定住するには気温がやや低過ぎた。そのためメキシコの低地を悩ませてきた黄熱、デング熱、ジカ熱が徐々に減少していた。しかし今では、気温の上昇と共にネッタイシマカが見られるようになってきた。メキシコシティに住む2100万の人々にとっては、警戒すべき事態だ。ネッタイシマカが現れる場所ならどこでも、デング熱やジカ熱をはじめとするさまざまな病気が発生するのは間違いない。同様の現象は、ネパールでも見られる。ネパールでは最近まで、蚊が媒介する病気はほとんどなかった。2015年、ネパールにおけるデング熱の発生件数は135件だったが、2019年には1万4662件に増加した。2019年夏のフロリダにおけるデング熱の症例はほとんど見られず、60件程度で死亡者もいなかった。しかしこれは、米国におけるデング熱の流行地域が北上している可能性を示唆している。

他の地域における蚊の媒介する病気は、もっと複雑だ。特にサブサハラ・アフリカ地域の子どもたちの間に広まるマラリアによって、年間40万人以上が亡くなっている。最も酷い症状をもたらすのは、ガンビアハマダラカが宿主となって運ぶ熱帯熱マラリア寄生虫によるものだ。ガンビアハマダラカは、ネッタイシマカほど美しい姿ではなく体も小さい蚊で、高気温を嫌う。地球温暖化の進行により、西アフリカはガンビアハマダラカにとって気温が高くなり過ぎたため、より気温の低い東部や南部アフリカへと移動すると見られている。医学地理学者のサディー・ライアン(フロリダ大学)の最近の研究によると、高い炭素排出量を維持する状況(より厳しい地球温暖化をもたらす可能性がある)が続くならば、2080年までにアフリカの東部や南部地域でさらに7600万人がマラリア感染のリスクに晒されるという。同時に、高温を好むネッタイシマカが、ガンビアハマダラカのいなくなった西アフリカへ移動し、デング熱やジカ熱などの病気を広げる可能性がある。

Translated by Smokva Tokyo

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