パンデミック新時代、コウモリ・蚊・ダニの恐るべき伝播力

「ウイルスを運ぶコウモリが餌を取れるかどうかは、気候に左右される」

プローライトにとって、気候危機と病気との関係は明らかだ。「ウイルスを運ぶコウモリが餌を取れるかどうかは、気候に左右される」と彼女は説明する。「森の開花時期はいつか? そして開花のきっかけは何か? あまり解明されていないが、気温、季節、雨量などあらゆるファクターに起因する。気候は主要な要素のひとつだ。あらゆるものの変化のスピードは早い。周囲の自然に広がる貯食のネットワークを見てみると良い。ある種のコウモリが食を求めてあちらこちらへと移動しているのがわかる。花と蜜に群がって、餌が無くなると次の場所へと移る。そうやって自然の暮らしの中に食べ物が無くなると、今度は人間の住む家の庭や馬小屋など、とにかく餌が豊富にある場所を求めてやって来るのだ」

コウモリと、ヒトを含む他の動物との接触の機会が多いほど、彼らの保有するウイルスが拡散する可能性も高まる。「新型コロナウイルス(SARS-Cov-2)は、人道的危機を起こしている」とプローライトは指摘する。「しかし、無症状者の間での感染が一定期間続いた後で、人口の半分が死亡するような状況を想像できるだろうか? それは正に今私たちが直面している危機だ。気候変動のスピードが早ければ早いほど、そのリスクは高まる」

ヒューストンの寂れた郊外にある設備の整っていない小さな研究所で、マックス・ビジラントが数百匹の蚊の死骸を選別しながら、羽の生えたテロリストであるネッタイシマカを探している。ビジラント(58)は、ハリス郡公衆衛生部の蚊・媒介生物対策部門で運営責任者を務めている。彼は、全米屈指のモスキートハンターとしても知られている。彼は、苦労して専門知識を身に付けた。カリブ海のドミニカ国で生まれた彼は、16歳の時にデング熱にかかったが、レモン汁を使った民間療法で対処した。この経験が彼の人生を変えた。以降彼は、蚊と人間の健康との関係性について研究している。

彼の前にある死んだ蚊の山は、数時間前までヒューストン郊外を飛び回っていた。ビジラントは、蚊取り器で捕らえた蚊を研究所の冷凍庫に放り込み(ただし3分間だけ)、分類を始めた。グループ分けされた蚊はすり砕かれ、いくつかの検査によって含まれる病原体を調べられる。ハリス郡は蚊の多い地域で、毎週数千匹の蚊がすり砕かれ、恐ろしい病原体を持っていないかが調べられている。厳密には精密な検査方法とは言えないが、多くの都市ではこのレベルの検査も実施していない。

ビジラントが分類している蚊の大半は、米国南部にどこにもいるイエカ属の蚊だ。しかし、ビジラントが探しているのは別の種だ。彼は死骸の山から1匹を取り上げる。パッと見たところは、他の蚊と見分けが付かない。彼は蚊のふさふさした眉の部分を指して、メスとオスの見分け方を示してみせる。「彼女の腹の部分の白い縞が見えるかい?」と、デスクの上に置いた大きな拡大鏡を通して1匹のメスの蚊を見せた。「白いタキシードを着ているようだろ?」

ビジラントは蚊を大事そうに持ち上げて、さまざまな角度から見せてくれた。「これがネッタイシマカだ。美しいだろ?」と彼は言う。

Translated by Smokva Tokyo

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