パンデミック新時代、コウモリ・蚊・ダニの恐るべき伝播力

パンデミックは政治の問題

世界の中でも特に化石燃料の消費量が多い都市の寂れた通りに立って改めて認識したのは、感染症の監視体制の不備だけが主な問題では無い、と言うことだった。最大の問題は、私たちの生き方にある。郊外の住宅地を造成したり食肉工場で牛を飼育するために森林を伐採し、化石燃料を消費して家庭や自動車に使う電力を供給している。全ては地球温暖化を促進し、自然界に大きな影響を及ぼす。ハーバード大学T・H・チャン公衆衛生大学院の気候・衛生・地球環境センターで暫定理事を務めるアーロン・バーンスタイン博士は言う。「もしも感染症の発生を防ぎたければ、まずは生物圏のあり方を真剣に考え直す必要がある。私たちは新たに発生した種を、これまで存在しなかった種類に分類して知らぬふりをし、新たな感染症の発生に繋がらないことをただ願っている訳にはいかない」

新種の感染症だけの話ではない。気候変動によって私たちは、既存の感染症に対しても脆弱になる可能性がある。世界の中でも特に貧困な地域における食糧生産量は、気温の上昇と干ばつのために減退するだろう。「気候変動によって人間が被る最も大きな健康被害は、特にエチオピアやマリなどによく見られる栄養失調の人々の間に流行する結核や麻疹などの一般的な疾患だろう」と、スタンフォード大学のスティーブン・ルビーは言う。「飢えた状態では、バクテリアやウイルスに対する抵抗が弱まるのだ」

新型コロナウイルスの感染者数が米国で初めて100万人を超えたテキサス州では、感染症監視のより良いシステムがあったとしても状況は変わらなかっただろう。新型コロナウイルスによってバタバタと人が亡くなる中で、州内の中規模の街を歩いても誰一人としてマスクを着用していない。テキサス州知事を務める忠実な共和党員のグレッグ・アボットは、市長や郡判事らと、商店への休業命令権限やマスク着用の義務化について激しく衝突した。最も被害を被るのはいつでも、貧困層や有色人種、保険の未加入者、そしてハイテクの化石燃料中心の社会の端で生きる人々だ。結局のところ、パンデミックは政治の問題であり、科学の問題では無いのだ。

闘いは続く。私と少し話した後でビジラントは、自分のトラックの後ろからつるはしを取り出す。道の真ん中にあるマンホールの蓋の穴につるはしの先を引っ掛けて力ずくで開くと、蓋の裏には蚊取り器がぶら下がっていた。ドライアイスの容器とライトが鎖で繋がれ、その先には網の罠が付いている。蚊は、ライトの光とドライアイスから発生する二酸化炭素に寄って来て、網の罠に引っかかるのだ。新たな病原菌が街に入り込んでいれば、ここで見つかるはずだ。

ビジラントは罠を外して持ち上げて見せた。中には数百匹の蚊が飛び回っている。それぞれが異なる組み合わせの病原菌を持ち、これまでヒトに感染したことの無いウイルスや寄生虫を運んでいる可能性もある。新種の病原菌はヒトへ感染する前に死滅してしまうかもしれないし、生き延びて無限に複製を繰り返し、文明の行方を変えてしまうかもしれない。

from Rolling Stone US


Translated by Smokva Tokyo

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