史上最高のベーシスト50選|2020年ベスト

36位 レス・クレイプール

Paul Natkin/WireImage

80年代のベイエリアはスラッシュファンクのベースプレイヤーで溢れ返っていたが、アグレッシブなチョッパーという点では、レス・クレイプールの右に出る者はいなかった。ひょろ長いプライマスのリーダーはベースをリード楽器のように扱い、左手でフレットボードを凄まじいスピードで連打したり(「レース・カー・ドライヴァー」でのモールス信号のようなイントロ)、目にも止まらぬ高速ストラミング(「プディング・タイム」)等を得意とした。「ベースを弾き始めた頃に俺が自分に課した重大ルールのひとつは、指3本で弾くってことだった」彼はそう語っている。「大半のプレイヤーは2本の指で弾いてたから、3本使えばもっと早く弾けると思ったんだ」。その親指の強靭さが尋常でないことは確かだが、キャプテン・ビーフハートやブーツィー・コリンズの影響を受けたという彼の折衷したプレイスタイルは、ボス猫や神話上の漁師、猟奇的な山人等をテーマにした(本人は「アングラおとぎ話」と形容している)楽曲と見事にマッチしている。メタル譲りのリフ(「ザ・トイズ・ゴー・ワインディング・ダウン」でのミュート3連符)から中東のラーガまで、様々なプレイスタイルを操るクレイプールは、ジャムセッションの達人たちからなるオイスターヘッドやColonel Claypool’s Bucket of Bernie Brains等、複数のサイドプロジェクトでも即興演奏のスキルを遺憾なく発揮しているほか、現在進行中のショーン・レノンとのプロジェクトでは、フィル・レッシュにも通じるプログレッシブなサイケを追求している。クレイプールの最大の功績は、ベースがボトムエンドを支えるだけの楽器ではないことを証明したことだ。「彼のベースに対するアプローチには驚かされた」90年代にクレイプールとツアーに出たラッシュのゲディ・リーはそう話している。「私から大きな影響を受けたと話していたけど、彼のスタイルは唯一無二だ。そのリズム感には少し嫉妬を覚えるくらいさ」




35位 ルイス・ジョンソン

Echoes/Redferns/Getty Images

マイケル・ジャクソンの「ビリー・ジーン」におけるシャッフルベースは楽曲のアイデンティティの一部だが、ルイス・ジョンソンがキャリアを通してこのスタイルにこだわり続けたとしても、彼は本リストに登場しただろう。クインシー・ジョーンズのお気に入りのセッションベーシストの1人である彼は、70年代後半〜80年代前半に生まれたポップス史上最も洗練された楽曲の数々でベースを弾いている。ジャクソンの「オフ・ザ・ウォール」のフックにおける、彼のダイナミックなボーカルに引けを取らないスピード感と正確さを誇るベースラインは、彼がメロディックなベースラインというコンセプトを生み出したジェームス・ジェマーソンの正統な後継者であることを証明している。一方でジョンソンは、ラリー・グラハムの専売特許であるチョッパー奏法の魅力も理解していた。マイケル・マクドナルドの「アイ・キープ・フォーゲッティン」における硬質でクールなローエンド(冒頭から10秒の部分に登場するリフには一体幾つの音が詰め込まれているのか?)のプレイは、無数のヒップホップのプロデューサーたちをインスパイアしたはずだ。「当時俺が知っていたことのすべてを、あいつにじっくりと教えてやった」ジョンソンの兄でバンドメンバーでもあったジョージ(ルイスのThunder Thumbsというニックネームに対し、彼はLightnin’ Licksという愛称で呼ばれていた)は、弟にベースを始めさせた時のことについてそう語っている。「アメフトでいうと、あいつはクォーターバックみたいな花形プレイヤーだった。ボールを持ったら一気に走り出し、毎回必ずタッチダウンを決めるんだ」




34位 リチャード・デイビス

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エリック・ドルフィーの『アウト・トゥ・ランチ』やアンドリュー・ヒルの『Point of Departure』等の先鋭的ジャズの名作から、ヴァン・モリソンによるフリーフォークの金字塔『アストラル・ウィークス』まで、リチャード・デイヴィスは60年代屈指のレコードの数々にクレジットされている。しかし、それらは彼の膨大なアウトプットのごく一部に過ぎない。60年以上に渡るキャリアの中で、サラ・ヴォーンやポール・サイモン、イーゴリ・ストラヴィンスキー等、音楽史に名を残す巨人の数々と共演している彼は、無数のセッションやライブでその実力を証明してきた。デューク・エリントンの「カム・サンデイ」でドルフィーとデュエットしたアルコのライン、ブルース・スプリングスティーンが軽犯罪に手を染めた男の物語を歌った「ミーティング・アクロス・ザ・リバー」におけるウォームでリズミックなパターン、モリソンの「ビサイド・ユー」でのポエトリーに寄り添うような痛切なフレージング等は、彼の情感豊かなプレイスタイルが小編成のアンサンブルでこそ真価を発揮することを物語っている。「リチャードなしでは考えられなかった」発表から40周年を迎えた『アストラル・ウィークス』について、プロデュースを務めたルイス・メレンスタインはそう語っている。「彼があのレコードに魂を吹き込んだんだ」




33位 レミー・キルミスター

Fin Costello/Redferns/Getty Images

モーターヘッドの代表曲「エース・オブ・スペーズ」は、レミー・キルミスターによるタップダンスのようなリードベースで幕を開け、「生まれながらの負け犬」の気持ちを歌う彼のボーカルとともに、愛機のリッケンバッカーは地獄へと突き進んでいく。キルミスターの「無鉄砲」の美学は、歌詞とベースプレイの両方に滲み出ている。モーターヘッド結成前、彼はスペースロックの雄ホークウインドに加入する際にリズムギターからベースへ転向した。「ベースは弦が2本少ないだけで、他は全部ギターと同じだ」キルミスターはそう話している。「残りの弦でコードを鳴らしてみただけのことさ。風変わりだけど、俺たちには合ってた」。ドラッグ依存を理由にホークウインドを解雇された後、彼は独自のスタイルを確立した。「レミーのディストーションの使い方には影響を受けたよ。ユニークで斬新、そしてエキサイティングだった」メタリカのベーシストだったクリフ・バートンは生前そう語っていた。サンドペーパーのようにざらついた歌声、そして弱者のウィットと見事にマッチしていた彼のベースへのアプローチは、彼自身が誇りにしていた個性だった。「俺のようなプレイヤーは他にいないと思う」彼はそう話している。「ずっとジョン・エントウィッスルに憧れてたけど、そのポジションはもう埋まってた。だから俺はその出来損ないになったんだ」


Translated by Masaaki Yoshida

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